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あなたに



          新宇宙の女王として即位したアンジェリークは窓の外を眺めていた。
          空にはどんよりとした雲。
          ここ二、三日の気温から行くと、雪が降ってもおかしくない。
          天気が安定している新宇宙では珍しいことであった。
          そわそわしているアンジェリークに声をかけてきたのは、女王補佐官のレイチェルだった。
          「アンジェ!」
          「あ、レイチェル!」
          「雪が降りそうだよね。今日あたり・・・かな」
          「・・・うん」
          二人は目を合わせてくすっと笑う。
          「降るといいよね?」
          「うん、そうね」
          仲良く話をしている間にも、空からは白い雪が舞い降りてきていた。


          「アンジェリーク!」
          「エルンストさん!」
          久しぶりの再会にエルンストもアンジェリークも瞳を輝かせている。
          「お元気そうでなによりです。
           ・・・お久しぶりですね、貴女に会うのはどれくらい経っているのでしょうか?」
          「エルンストさん・・・」
          呼ばれて照れくさそうにエルンストは眼鏡を押さえた。
          「・・・貴女はもう、新しい宇宙の女王でしたね、
           ───アンジェリークと呼び捨てにして申し訳ありません」
          「そんなこと言わないでください───
           折角こうやって会えたのに・・・」
          少し表情を曇らすアンジェリーク。
          「も、申し訳ありませんでした。
           では・・・アンジェリーク、今日はどのようにして過ごしましょうか?」
          「せっかく会えたんですから、お話をしたいです! エルンストさん!」
          アンジェリークはそっとエルンストの手を取った。
          柔らかく細い指先から、何とも言い様のない温かさを感じ、エルンストは握った手に力を込めた。
          アンジェリークが聖地からいなくなってからというもの、心に空いた穴を埋めようもなく、
          仕事で寂しさを紛らわしていた日々が嘘のようである。
          アンジェリークが宇宙の女王として頑張っている。
          アンジェリークが治める宇宙を眺めながら、そう言い聞かせて自分も耐えてきた。
          そして、やっと会うことのできたこの時間。
          今、この時間がエルンストにとって全てといっても過言ではなかった。
          「貴女に───貴女にとても会いたかった・・・」
          エルンストの呟きにアンジェリークもエルンストをみつめる。
          「私も・・・です。
           もう二度と会えないと思っていたんです。
           ───でも、こうやって会えて・・・良かった」
          「アンジェリーク」
          「エルンストさん・・・」
          「貴女がいなくなって───私は・・・正直言って後悔をしました。
           貴女を行かせるべきではなかったのではないかと。
           ですが──────」
          「大丈夫です!
           私、こうみえても結構頑張っているんですよ!
           いっつもレイチェルに怒られながらですけど・・・」
          明るく答えるアンジェリークの瞳にうっすらと涙が滲んでいる。
          エルンスト同様、寂しかったのだろう。
          愛しい人との別れ。
          それは、アンジェリークにとって身を削られるほど辛いものだった。
          だが、彼女はあえてそれを選んだ。
          どれほどの想いでいたかは、アンジェリークでしかわからない。
          エルンストはゆっくりとアンジェリークに近づき、その小さな身体を抱きしめた。
          「貴女は、いつも明るく私を支えてくれるのですね。
           ───私は・・・貴女の力になれたのでしょうか?」
          「もちろんです!」
          「ありがとう・・・
           今日は、貴女にどうしても伝えたいことがあるんですが・・・」
          「?」
          エルンストは一度アンジェリークの手を離すと、自分の指にはめていた指輪をアンジェリークの指にはめた。
          「私の気持ちです。
           未来永劫、変わることのない、貴女への愛の証です。
           ───受け取っていただけますか・・・?」
          アンジェリークの我慢もそこまでだった。
          とめどなく熱い涙が頬を伝い、思うように言葉が出てこない。
          「アンジェリーク・・・私はいつでも貴女を想っています。
           この想いは貴女に届いていますか?」
          「エルン・・スト・・・」
          「貴女と離れて、初めて貴女が私にとってどれほど大切な女性だったかがよくわかりました。
           ───ですが、後悔はしていません。
           こうやって貴女に会えて・・・私の想いを告げる事ができたのですから」
          きゅうと抱きついてくるアンジェリークを優しく包みながらエルンストは空を見上げた。
          「再会というのは、嬉しい反面・・・悲しいものでもあるのですね。
           貴女に会えて・・・こうやって言葉を交わし、貴女を感じ・・・
           その幸せを感じている間にも別れの時が来るのですから・・・」
          「─────────」
          「アンジェリーク、またお互いに離れてしまわなくてはなりませんが、またこうやって会える日が来ます。
           その時には、私の想いに対する貴女の返事を聞かせてくれますか?」
          「エルンストさん・・・」
          「もうそろそろ行かなくてはなりませんね。
           ───次の再会を楽しみにしています。
           愛しています、アンジェリーク・・・・」
          エルンストはアンジェリークの身体を思いっきり抱きしめ、その柔らかい頬に唇をあて、
          もと来た道を引き返していった。
          ほんの束の間の逢瀬。
          だが、それでも愛しい人と言葉を交わし、愛しい人を感じられた、何にも変えがたい貴重な時間。

          そして───

          「・・・エルンスト・・・」
          翌朝、目が覚めたアンジェリークの頬には涙の跡。
          そして指には綺麗な指輪が輝いていた。
          「───ありがとう」
          ゆっくりと起き上がり、枕もとに置いてあった物にそっと手をふれる。
          白く輝く、小さく可愛らしい物。
          それは、雪うさぎ。
          決して溶けることのない魔法の雪で作られた雪うさぎ。
          二度と会うことのないであろうエルンストとアンジェリークのためにチャーリーが届けてくれた物。

          雪が降る晩には愛しい人と会うことができるという、白く輝く魔法の雪うさぎ。





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