プレゼント♪
夕暮れが迫るころ、今まで騒がしかった公園が嘘のように静まりかえる。
聞こえるのは近くでキャッチボールをして遊んでいる子供の声と噴水の水の音。
そして風の音。
オスカーはそわそわしながら噴水の前に立っていた。
約束の時間まであと十分。
今日は珍しく彼女から誘いがあったのだ。
彼女からの誘いとあれば断るわけにはいかない。
最近、オスカーが気になってしかたのない少女。
やがて、風の音に混じって、ぱたぱたと元気の良い足音が聞こえてくる。
「・・・お嬢ちゃんらしいな」
ふっと笑みを浮かべ、オスカーは少女が現れるのを待っていた。
「オスカー様!」
「よぉ、お嬢ちゃん!」
大きな瞳を輝かせて、アンジェリークはオスカーの側に駆け寄る。
「ごめんなさい、お待たせしちゃって・・・」
息を切らしながら、謝るアンジェリークを優しく見つめるオスカー。
「なに、こうやってお嬢ちゃんを待ってる時間も楽しいもんさ」
「オスカー様・・・」
「───お嬢ちゃんから誘いがあるなんて嬉しいぜ?」
「もうっ! “お嬢ちゃん”て呼ぶのをやめてください!」
ぷぅっと頬をふくらませて抗議するアンジェリーク。
オスカーにとって、アンジェリークの何もかもが可愛かった。
子供扱いすれば、必ず怒るアンジェリークの反応が見たくて、わざと子供扱いをしてしまう。
「で・・・今日はどうした?」
オスカーに問われ、アンジェリークは嬉しそうにとある物を差し出した。
綺麗にラッピングされた包み。
「ん?」
「今日はオスカー様のお誕生日ですよね?
よかったらもらってくださいませんか?」
「──────」
自分の誕生日などすっかり忘れていたオスカー。
守護聖となり、外界の人間とは異なる時間を生きていると誕生日など忘れてしまう。
誕生日を祝ってもらって喜ぶ年齢はとっくに過ぎているが、こうやって愛しい女性から祝ってもらうのは
特別な感慨があった。
「オスカー・・・様?」
手に持った包みをじっと見ているオスカーを心配そうに見るアンジェリーク。
「あ、ああ、すまない。
───嬉しいぜ、お嬢ちゃん・・・開けてもいいか?」
「あ、はい!
でも・・・あんまり出来がよくなくって・・・」
リボンを解き、丁寧に包み紙を取ると、中にはふわふわの毛糸のマフラーが入っていた。
少し編目がふぞろいのところを見ると、アンジェリークの手編みなのだろう。
「───これを・・・お嬢ちゃんが?」
「ええ・・・こんなのでごめんなさい───」
申し訳なさそうにしているアンジェリークの目の下にはクマができている。
自分のために、忙しい女王試験の合間をぬって編んでくれていたのか。
そう思うといてもたってもいられなくて、オスカーはアンジェリークを抱きしめていた。
「きゃっ!」
「アンジェリーク・・・」
「オ、オスカー様───」
アンジェリークの小さな身体がすっぽりとオスカーの腕の中におさまる。
「ありがとう、アンジェリーク・・・」
「そんな・・・」
これが私邸でなくて良かった、と自分でもオスカーは思った。
込み上げてくる熱い感情に己を見失っていたかもしれない。
「俺のために編んでくれたのか───」
「え、ええ・・・」
腕の中から聞こえる可愛い声。
「アンジェリーク・・・俺は───」
オスカーが何か言いかけた時。
ぽんっ。
野球のボールがオスカーの身体に当たった。
「ごめんなさーい! オスカー様!」
キャッチボールをしていた子供たちが大きな声でオスカーに謝る。
二人の世界から一気に現実に引き戻されたオスカーは不機嫌そうにボールを投げ返した。
同時にアンジェリークの身体がオスカーの腕から離れる。
「あ・・・私、そろそろ帰らないと・・・」
アンジェリークはそう言って、オスカーにお辞儀をした。
「今日はありがとうございました。
受け取ってくださってありがとうございました、オスカー様」
「アンジェリーク!」
帰ろうとするアンジェリークの腕をオスカーは思わず掴んでいた。
「はい?」
「寮まで送っていこう」
「で、でも・・・」
「俺がそうしたいんだ、いいだろう?」
アンジェリークの頬が赤いのは夕日のせいだろうか。
「じゃあ・・・お言葉に甘えて───」
寮までの道のりはオスカーにとってあっけないほど短いものだった。
他愛のない会話をしているうちに、寮が見えてくる。
「あ、ここでいいです、オスカー様。
今日はとても嬉しかったです」
再度ぺこっとお辞儀をし、アンジェリークはまるで羽根が生えているような軽やかな足取りで寮の中へと姿を消した。
「・・・参ったな、俺としたことが」
オスカーはアンジェリークの残像を追ったまま、苦笑を漏らす。
「どうやら俺は、君に本気になってしまったみたいだな・・・アンジェリーク」
いつかはこの腕にあの天使を思う存分抱くことができるのか。
いや、待て。
ここはやはり、あの細い左手の薬指を予約しておく方が先か・・・
そんなことを考え、オスカーはアンジェリークの編んだマフラーを巻き、名残惜しそうに私邸への道を歩き出した。
「ふぅ・・・これでオスカー様に渡したっと」
アンジェリークは部屋の中で毛糸玉を見つめて呟いた。
編物が得意なアンジェリーク。
最初はチャーリーへのクリスマスプレゼントのセーターを編むつもりで買った毛糸。
だが、あと腕一本分を残し、毛糸が足らなくなってしまったのだ。
慌てて買いに行ったのだが同じ毛糸はもうなく、仕方なく別の毛糸を買い、編みあげたまではよかったが、
困ったのはチャーリーのために編んでいたセーターの出来そこないである。
どうしよう、捨ててしまうのももったいないなぁ、と途方にくれていたアンジェリークだったが、
オスカーの誕生日が近づいているのに気付き、セーターをほどき直して、マフラーを編んだ、というわけだった。
「まだもうちょっと残ってるのよね・・・
マフラーを編むにはちょっと足らないかも───
・・・あっ! そうそう! 今度のエルンストさんのお誕生日にミトンの手袋でも!」
いい考えが浮かんだ、とばかりに微笑み、せっせと編物を始めるアンジェリーク。
当然、オスカーの胸の内なぞ知るよしもなかった。
天使という意味の名を持つアンジェリーク。
『天使とは慈悲深いものであり、時に残酷である───』
とは誰の言葉だっただろうか───
続く・・・かもしんない?(嘘。爆 (;;))
HOME