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「はぁ?」
「ですから・・・」
ゼフェルの執務室にアンジェリークが訪れた。
今日は育成でも何でもなく、ただのお願いがあるという。
彼女の髪の香りにドキドキしながらも、アンジェリークの話を聞くゼフェル。
「本の中に入る機械?!」
「はい!」
「本の中ってよ、オメー・・・」
「だから、本の主人公になってそのお話を楽しめるような───」
「バーカ! んなのできるわけねーだろ!」
何言ってるんだ、コイツ。
いや、何を考えてるんだコイツは・・・
アンジェリークの突飛過ぎる考えについていけないゼフェル。
だが、アンジェリークの方はいたって真剣だった。
この前ルヴァの部屋で借りた恋愛小説にのめり込んでしまったのだ。
お姫様と素敵な王子様の甘い話。
夢中で読みふけり、読んだ後も何度も何度も繰り返して読んだ。
その話の主人公であるお姫様は大人で、美しく、また強い。
自分にないものを求めるような憧れがあった。
そして相手の王子もハンサムで男らしく、優しく・・・
「お願いします!
ゼフェル様にだったら出来ると思って・・・私・・・」
「できねーもんはできねーんだよっ!」
「──────」
がっくりとうなだれてうつむいたアンジェリーク。
「わかりました・・・ごめんなさい・・・」
「───お、おい」
「私、鋼の守護聖であるゼフェル様なら何でもできると思っていました。
無理を言ってしまってごめんなさい」
「・・・・・・」
「失礼しま───」
「待てよっっ!」
「・・・え?」
落ち込み、涙さえ浮かべているアンジェリークにゼフェルは弱かった。
ましてや『鋼の守護聖であるゼフェル様なら何でもできる』の言葉。
「ぜってームリだって言ってねーだろうがよ!」
「え・・じゃあ・・・」
ぱあああっとアンジェリークの顔がほころぶ。
───ったく、このグズトロ女・・・
「出来上がったら呼ぶからよ、さっさと出ていけよ!」
「ありがとうございます♪ ゼフェル様♪」
嬉しげにゼフェルに抱きつくアンジェリーク。
「お、おい! 離せよっ!」
「だって嬉しくって♪」
アンジェリークの温もりを感じながらも、ゼフェルの頭の中はすでに頼まれた機械の組み立てへ
飛んでいた。
それから二日後、ゼフェルの執務室には再びアンジェリークの姿があった。
「出来たぜ!」
「わぁ! 嬉しいです、ゼフェル様!」
「ま、俺にかかればこんなモンよ・・・」
「やっぱりゼフェル様ってすごいですね!!」
嬉しそうに、本当に嬉しそうにしているアンジェリークを見て、ゼフェルも心がウキウキしてくる。
「んでよ、これ───」
例の機械を出そうとしたゼフェルをアンジェリークが受け取る。
渡された機械は小さな正方形の薄い機械だった。
「で、これを頭につけてその本を手に持ってれば入れるからよ・・・」
「はいっ!!!
───じゃあ、早速ルヴァ様のところに行ってご本を借りてきます!」
「・・・って、おい、おいっっっ!!
待てよっ、をいっっっ!!!!
戻るには全部───ちっ!!!!!」
時すでに遅し。
アンジェリークの姿はもはやゼフェルの執務室にはなかった。
「おや〜来てくださって嬉しいですよ〜」
「ルヴァ様、こんにちは!」
アンジェリークの顔を見て、にこにこ笑いながら迎えてくれるルヴァ。
最近、頻繁に訪れる少女が愛しくてたまらないといった表情である。
「この前お借りしたご本を今日もお借りしたいんですけど・・・」
「あ〜どうぞどうぞ。
今クラヴィスも来てるんですよ〜、お茶でもいれますね〜」
「ありがとうございます、ルヴァ様」
お礼を言って執務室の奥にある膨大な書物の部屋に入って、本を探すアンジェリーク。
「・・・・お前か・・」
「あっ、クラヴィス様こんにちは!
クラヴィス様もルヴァ様にご本をお借りに来たんですか?」
「フッ・・・まぁな・・・」
会話を交わしながらも、アンジェリークの目は真剣である。
「───あ・・・あったぁ!!」
目指す本を見つけ、思わず大きな声を出すアンジェリーク。
その手には先ほどゼフェルから貰った機械が握られている。
「あ〜・・・二人ともお茶が入りましたよ、リュミエールも来ていますよ〜」
のんびりしたルヴァの声がクラヴィスとアンジェリークを呼んでいる。
それを受けて、クラヴィスは選んだ本を部屋の中にある机の上に置いた。
「あ・・・私もうちょっとしたらそちらに伺いますってルヴァ様に伝えていただけますか?」
「───わかった」
今は一刻も早く物語の主人公になりたい。
早くあんなお姫様になって、そしてあの王子様と───
アンジェリークに一瞬視線を投げて、クラヴィスは部屋を出て行った。
「うふふふふふ♪ では早速♪」
言われた通り頭に機械を当て、本を手にしっかりと抱える。
しゅんっ!
瞬時にアンジェリークの姿が本の中に消え、本は机の下に落ちた。
「おいっ! あのグズトロ女はっ!!!」
「あ〜・・・ゼフェル?」
「あのバカ女はどこに行ったって聞いてるんだよっっ!!」
お茶を楽しんでいたルヴァとクラヴィス、そしてリュミエールは目を点にしている。
「さっきここへ来るって飛び出していったあの・・・アイツだよっ!!」
「───あ〜・・・アンジェリークですね。
アンジェリークなら奥の本の部屋にいるはずですけど・・・」
「くそっ!」
凄い勢いで奥の部屋へ飛び込むゼフェル。
「おいっ! バカ女!」
アンジェリークを呼ぶが、返事はない。
「くっそぉ! もう入ったのかよっ!!
・・・・ん? この本の中か?!」
念のためもう一つ作ったと言えば聞こえはいいが、アンジェリークが読む本ぐらいはゼフェルにも
見当がついていた。
自分もその本に入れば、相手役になるだろうと思いもう一つ作っておいたのだ。
机の上にあった黒い表紙の本を手に取って、ゼフェルは機械を頭に当てた。
「姫、今日も姫の元気そうな顔を拝見できて嬉しく思います」
「アルフレッド王子・・・」
豪華な衣装を着て、あの憧れの王子との恋愛を楽しんでいるアンジェリーク。
一方のゼフェルは───
「うわっ! 何だこれ、動けねーじゃねーかよ!!」
自分が何になったかもわからず、動けないままゼフェルはただ大声をあげていた。
丁度ゼフェルが本に入った頃、クラヴィスが席を立った。
本を読みに戻るらしい。
「あ、クラヴィス様・・・私も・・・」
リュミエールも席を立ち、クラヴィスの後を追う。
「ゆっくりしていってくださいね〜」
ルヴァの優しい言葉に目礼して、二人は本の部屋へと足を踏み入れた。
「・・・・・・・?」
先ほど机に置いたはずの本が床に落ちているのを訝しげに見るクラヴィス。
「どうかしましたか? クラヴィス様?」
「───いや・・・何でもない」
落ちていた本をぽんぽんとはたいて、クラヴィスは表紙をめくった。
「あの本ですね、クラヴィス様。
ずいぶんとお気に入りで、もう何回も読まれていますよね」
「ああ──────ん?」
「クラヴィス様?」
「・・・見てみろ・・・・」
少し笑っているような、そんな顔をしてリュミエールに本を差し出すクラヴィス。
「?」
不思議そうに本を受け取ったリュミエールの顔に驚きの色が表れていた。
「こ、これは・・・クラヴィス様?」
「フッ・・・面白い・・・」
くすくす笑いながら本を読み始めるクラヴィスと、オロオロしながらも一緒に本を読むリュミエール。
そう。
ゼフェルが入った、クラヴィスのお気に入りの本は───
僕、わら人形君。
名前はゼフェルって言うんだ。
「をい! 何だよ! これ!」
僕は人を呪うために作られたんだ。
たくさんのわらからできてるんだよ。
「だからよ! 何で俺がわら人形なんだよっ!!」
今日も僕の出番はなかったんだ。
でも明日ぐらいには僕の出番かな?
「出番って何だよ! 出番てよ!!」
人を呪うって素敵なことだよね♪
「素敵じゃねーだろ!!」
あっ!
足音が聞こえた!
僕の出番だ!
「をい! いいかげんにしろよっ!!」
ご主人様は誰を呪うんだろう?
「誰だっていいけど、やめろってばよ!!!」
外の世界ってこんな静かなんだ。
ご主人様は頭にろうそくをつけて、白い着物を着ているよ。
僕はそのままの格好でこれから木に打ちつけられるんだ。
「なにぃぃぃぃぃ?!」
ちょっとドキドキするよね。
「ドキドキどころじゃねーだろうがよっっ!!」
あっ、儀式が始まったよ。
ご主人様が五寸釘と木槌を取り出したよ。
「てめっ! やめろっっっ!!」
いよいよその五寸釘を打ち込まれるんだ。
ぐさっ!
「うわああああああ! って・・・痛くねぇ?
───わら人形だから・・・か?」
いっぱい打ち込まれて僕の使命は終わり。
このままずっとこの場所にいるんだね。
さようなら、ご主人様。
僕、ご主人様の役にたってよかった。
ぼわんっっ!
話が終わったところで本からいきなりゼフェルが飛び出してきた。
「・・・・・お、終わったのか・・・」
「ゼ、ゼフェ───」
「──────フッ」
「フッじゃねーだろっっ!
テメーか! この本を選んだのはっっっ!!」
「ゼフェル、落ち着いて───」
「これが落ち着いていられっかよ!
変な本読みやがってよ! 何が「僕はわら人形君」だよ!」
「楽しい本だろう・・・」
「ばっ、バカヤロー!!!!!」
「私は楽しかったがな・・・
挿絵のわら人形の髪の毛が銀色だったからな───」
「て、てめー!!!!!」
大騒ぎになっているのをよそに、アンジェリークは王子との恋愛を楽しんでいた。
「姫、私と結婚してもらえませんか?」
「アルフレッド王子・・・」
盛大な拍手が起こり、周りの人々も姫と王子の結婚を喜んでいるようです。
「愛しています・・・」
「王子様───」
し・あ・わ・せ♪
本の中でアンジェリークは大満足していた。
やがて物語りも終わりに近づき───
ぼわんっっ!
ごちぃっ!!
本から出たものの、机の下に本があったため思いっきり頭を打ったアンジェリーク。
「痛ぁい!!」
「ああっ! テメー!!!!」
「・・・きゃぁっ!」
戻ったアンジェリークを目ざとく見つけ、ゼフェルが机の下から引きずり出す。
「テメーが変な機械作れって言うからオレが変な目にあうんだよ!!!」
「?」
「オメーのせいで、オレが『僕わら人形君』とかいう変な本に入ったんだよっっ!」
「えっ?」
もはや八つ当たりである。
「───機械とはこれのことか・・・」
いつの間にかゼフェルの頭から取った機械を持ってクラヴィスが微笑む。
「な、テメー! 返せよっ!!」
「───ならば・・・」
一冊の本をゼフェルに持たせ、素早く頭に機械を取り付けるクラヴィス。
「や、やめろ・・・・」
しゅんっ!
赤い表紙の本に吸い込まれるゼフェル。
「あ・・・」
「少しはこれで静かになるだろう───」
アンジェリークが入っていた本と自分が読んでいた本を書架にしまい、赤い表紙の本を机の上に置いて、
何事もなかったように平然としているクラヴィス。
「クラヴィス様・・・」
「───クラヴィス様、あの・・・この本は・・・」
「・・・・『僕わら人形君2』だ」
「えええええ?」
「あ、あれはシリーズ物でしたよね」
口もとに笑みを浮かべ、赤い本を見つめるクラヴィス。
何が何だかいまいち事情がわかってはいないがおっとりと笑うリュミエール。
アンジェリークは頭のコブをなでながらも、この後に起こるであろう爆裂騒ぎを予想し、先ほどまで
味わってた幸福感など消し飛んでしまっているのであった・・・
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