IMPRISONMENT 2
月曜日、アンジェリークは少し遅刻をしました。
理由は一つ。
リュミエール様のお顔を見たくなかったからです。
あれからベッドに潜り込んだはいいけれど、全然眠れず、その日一日外出せずに家にこもっていました。
本当は今日、お休みしようとも思ったのですが、大事な仕事の納期がせまっていたので休むわけには
いきません。
遅刻したアンジェリークはクラヴィス課長に謝りました。
クラヴィス課長は別にアンジェリークに注意をするわけでもなく、すぐに仕事にとりかかるように
言いました。
そのアンジェリークを心配そうに見ているリュミエール様。
しかし、アンジェリークはリュミエール様と顔を合わすことが出来ません。
やがて、お昼を告げるチャイムが鳴りました。
お昼を食べましょう、といつものようにリュミエール様がアンジェリークに話しかけます。
でも、アンジェリークはリュミエール様の申し出を断りました。
その日以来、アンジェリークはリュミエール様を避けるようになりました。
朝も電車の時間をずらし、お昼ご飯も社員食堂で食べ、帰りも理由をつけて残業をしたりしてなるべく
リュミエール様と一緒にいる時間を減らしていったのです。
そんな二人を黙って見ているクラヴィス課長。
電話もいつまでも電話線を抜いておくわけにはいきません。
電話会社に言って、相手の電話番号がわかるようにしておき、リュミエール様からの電話には一切
出ませんでした。
悲しそうにしているリュミエール様ですが、最近では何も言わなくなりました。
その反面、家に大量の手紙が届くようになったのです。
少なくとも1日に5通、多くて20通近くの手紙です。
差出人はリュミエール様でした。
どれもこれも文面は、せめてちゃんと話をしたい、とか、今度の休みの日には一緒に過ごしたい、
とか、電話に出てほしい等のリュミエール様のお気持ちが書かれてあります。
さすがのアンジェリークも限界でした。
ふと、以前クラヴィス課長と交わした会話がアンジェリークの頭に浮かびます。
『 「そうか、何かあったら相談にくるとよい・・・」
「───ありがとうございます」 』
リュミエール様が外出された時を見計らってクラヴィス課長に話しかけます。
「あ・・・あの・・・」
「どうした?」
「聞いていただきたいお話があるんですが・・・」
「今、ここでか・・・?」
「え、いえ───」
ここでお話をしてもいいのですが、いつリュミエール様が戻ってくるかもわかりません。
アンジェリークは、できれば他の人に話を聞かれない場所で、と遠慮がちにクラヴィス課長に話しを
しました。
「わかった、では───」
クラヴィス課長は少し大きめのメモ用紙に自宅の地図を書き込み、金曜日の夜か土曜日なら構わないと
アンジェリークに告げました。
「ありがとうございます、できれば金曜日に・・・」
「・・・構わぬ」
少しでも早くこの事態を何とかしたかったアンジェリークは金曜日の夜、クラヴィス課長のお家に
お邪魔させてもらうことにしました。
金曜日、クラヴィス課長とほぼ一緒に会社を出たアンジェリークは一旦自分の家に帰り、
58件ものメッセージが入った留守電のテープやリュミエール様から届いた大量の手紙をカバンに
入れて家を出ました。
電車を少し乗り継いで、書き込まれた地図通り郊外にあるクラヴィス課長のお家に向かいます。
お金持ちなのでしょうか、かなり広いお家にクラヴィス課長は住んでいらっしゃいました。
玄関のチャイムを鳴らすと、ほどなくクラヴィス課長が姿を現しました。
「・・・お前か」
「すいません」
「入れ・・・」
家の中も大変広く、高そうな骨董品がたくさん飾ってあります。
長い廊下を歩いて、階段を下りていく二人。
「大事な話なら、ここで聞こうか・・・」
階段を下りて、大きなドアの前でクラヴィス課長はアンジェリークを振り返ります。
「あ、はい・・・」
「何か飲み物をとってくる・・・」
「あの・・・お構いなく・・・」
部屋の中は真っ暗です。
中に電気のスイッチがあるから、とクラヴィス課長はアンジェリークを部屋の中に入れます。
アンジェリークが部屋の中に入ったと同時にドアが閉まりました。
続いてガチャリ、とカギの閉まる音。
「・・・ク、クラヴィス課長?」
慌ててドアノブを回すアンジェリーク。
しかし、カギはかかっていてドアは開きません。
「そこにいるんですよね? クラヴィス課長!?」
ドアを叩くアンジェリークの耳に、クラヴィス課長の声が聞こえてきました。
「───大事なものなら、最初からこうしておけばどこにも行かぬものを・・・」
「?!」
必死にドアを叩きつづけるアンジェリーク。
しかしドアの外からの反応はありません。
「クラヴィス様! 開けてください!! クラヴィス様!!!」
去っていく足音。
訪れる静寂。
───その日以来、誰もアンジェリークの姿を見ることはありませんでした。
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