激烈! 心理テスト!
エリューシオンへの育成のお願いにルヴァの執務室へと来ていたアンジェリークに
ルヴァはにこにこ笑いながら一冊の本を手渡した。
表紙はパステルピンクで単行本サイズの大きさの本だった。
「ルヴァ様、これは?」
「え〜、この前本の注文をしましてね。
ついで、と言ってはあなたに悪いかもしれませんが、ひょっとしたらあなたはこういうのが
好きかな〜、なんて思いまして・・・」
「中を見てもいいですか?」
嬉しそうに尋ねるアンジェリーク。
「ええ、ええ、あなたにプレゼントするために注文したんですよ」
本をめくるとそこには“あなたの深層心理がわかる心理テスト集”という題名がついていて、
本の前半部には心理テストがいくつかあり、後半部にはその結果がのっていた。
「わぁ! 嬉しいです! ルヴァ様!」
アンジェリークも女の子。
こういうのが嫌いなわけがない。
そして何より、自分のためにルヴァが注文してくれた、というのが嬉しかった。
試しにいくつかの心理テストをするアンジェリーク。
そして結果を見るとそれが結構当たっていた。
「ありがとうございます! ルヴァ様!」
「いいえ〜、いいんですよ。
あなたがそんなに喜んでくれるとこちらまで嬉しくなりますね〜」
にこにこと笑うルヴァにお礼を言って、アンジェリークは育成のお願いに行くため、
もう一人の守護聖、クラヴィスの執務室へと向かった。
ドアをノックして、執務室に入ると先客のリュミエールがハープを奏でていた。
「クラヴィス様、リュミエール様、こんにちは」
「・・・お前か」
「こんにちは、アンジェリーク」
リュミエールがアンジェリークにイスとハーブ入りの紅茶を勧めた。
「あ、すいません、リュミエール様」
お礼を言って、アンジェリークは本を机の上に置き、紅茶のカップに手を伸ばした。
「・・・その本は?」
気になったのか、クラヴィスがアンジェリークに聞く。
「あ、これですか?
これはさっきルヴァ様にいただいたとっても楽しい本なんです」
「それは良かったですね、アンジェリーク。
で、どのような本なのでしょうか?」
リュミエールも興味があるようである。
「これですか? 心理テストの本なんです」
「心理・・・テスト?」
「はい!」
ルヴァに見せた笑顔を今度はクラヴィスとリュミエールに向けるアンジェリーク。
その時だった。
ドアが乱暴に開き、見ればすぐわかるぐらい怒っているジュリアスとその後からオスカーが
困った顔をして入ってきたのだ。
「そなたは何をしているのだっ!」
「・・・・・・」
ジュリアスに詰め寄られても表情一つ変えないクラヴィス。
どうやら、執務の事でジュリアスの執務室に来てほしいと言われたクラヴィスはそれを
すっぽかしていたらしい。
「・・・何をそんなにカリカリしている?」
「クラ───!!!!!」
激昂するジュリアスにクラヴィスはたんたんと続ける。
「少しは落ち着け。
───そうだ、この娘に心理テストでもしてもらえばどうだ?
よく当たるらしいぞ・・・」
「・・・なっ!!!」
「何だ、自分の気持ちがこの娘に知られるのが怖いのか?」
クラヴィスの挑発にいとも簡単にジュリアスは乗ってしまった。
「そんなことは───!!!!」
「なら、そこに座れ」
すっかりクラヴィスのペースである。
冷静に考えれば何も心理テストをしなくても良いのだが、頭に血が上りきっているジュリアス。
怒りながらも素直にイスに腰かけた。
ついでオスカーもやれやれ、と言った顔でジュリアスの隣に腰を降ろす。
ほっとしたようにリュミエールがジュリアスとオスカーの前に紅茶を置いた。
ハーブの良い香りが執務室に広がる。
「───それで?」
不機嫌そうな声でジュリアスに促され、アンジェリークは本をめくった。
さっきルヴァの執務室で自分がやったのを飛ばして、その次の心理テストをすることにした。
「えーっと・・・五問あるみたいですけど・・・」
ちろっとジュリアスやクラヴィス、リュミエール、オスカーを見るアンジェリーク。
「五問あるのなら、答えを紙に書いた方がいいでしょうね」
リュミエールが少し大きめの紙とペンをアンジェリークに渡した。
どうやら四人とも心理テストをするつもりらしかった。
「───じゃあ・・・
“テレビではインストラクターが体操をしています。
まず一問目、もし、あなたがテレビにあわせて体操をするとしたらどこでやりますか?”」
本をそのまま読み上げるアンジェリーク。
まず最初に答えたのはオスカーだった。
「俺はそんな体操はしないな、普段から体を鍛えてるんでね」
次にクラヴィス。
「・・・体操などせぬ」
その次にリュミエール。
「そうですね・・・私もあまりそのようなことはしませんが・・・
あえてするなら自分の部屋でしょうね」
最後にジュリアス。
「うむ、やはりテレビの前であろう。
テレビを見ながらでないと、その通りにきちんとできぬ」
四人の答えをまず書き込むアンジェリーク。
「じゃあ、二問目いきますね。
“その体操をどのくらい熱中してやりたいですか?
1.お茶を濁す程度
2.うっすらと汗をかく程度
3.頑張ってクタクタになるぐらい”」
やはり最初はオスカーだった。
「まぁ、その質問も俺には関係ないな」
次にクラヴィス。
「私もその質問には関係ない・・・」
その次にリュミエール。
「うっすらと汗をかく程度でしょうか・・・」
最後にジュリアス。
「───頑張ってクタクタになるぐらい、だろう。
何事にも一生懸命頑張らねばならない」
再び四人の答えを紙に書き込み、アンジェリークは三問目の質問をした。
「三問目です。
“このテレビは早朝の番組ですが、もし時間帯を移すとしたらどの時間帯がいいですか?
1.早朝、つまり今のまま。
2.昼間
3.夕方から夜
4.夜中”」
答える順番が決まってきたようで、オスカーが一番最初に答えた。
「インストラクターがお嬢ちゃんのような可愛い女性だったら、俺は何時でも」
次いでクラヴィス。
「───夜中だ」
その後にリュミエール。
「私は夜・・・がいいと思いますよ」
最後にジュリアス。
「うむ・・・早朝であろう。
やはり、きちんと規則正しく生活はしなければならない。
朝、体も心も目を覚ますには早朝に体操するのが良いだろう」
三度それぞれの答えを書き、アンジェリークは四問目を読み上げた。
「四問目いきますね。
“こういう体操を週に何回ぐらいすればいいと思いますか?”」
順番どおりにオスカーが答える。
「そうだな、あえてするとすれば自分の気分が乗った時だな」
そしてクラヴィス。
「別にやらなくてもよい」
その次にリュミエール。
「そう・・・ですね、週に二、三回でしょうか・・・」
最後のジュリアス。
「やはり、毎日だろう。
体を動かすというのは大切だ。
一日一回というよりも、朝・昼・晩と一日に三回ぐらいはした方がよいのでは」
アンジェリークは紙に書き込み、最後の質問をした。
「じゃあ最後の質問をしますね。
“体操をし終わった時の気分は?”」
オスカーが口を開く。
「ま、体を動かせば気分は良くなるからな・・・
気分爽快、といったところだな」
次いでクラヴィス。
「───疲れた」
その次のリュミエール。
「終わってホッとした、というところでしょうか・・・」
最後にジュリアス。
「私もオスカーに近いな。
体を動かすと、不思議に爽快感がある。
よって───気分が良い、また次も頑張ろう、というところだな」
最後の答えを書きとめるアンジェリーク。
質問が終わり、何となく構えていた守護聖達は少しくつろいだようであった。
少し冷めた紅茶を飲み、再びリュミエールが新しく紅茶を入れなおす。
「───それで、その心理テストの結果はどうなのだ?」
怒りがだいぶ収まったのか、ジュリアスの声のトーンは柔らかくなっていた。
「・・・・・あれ、何て読むんだろう?」
アンジェリークは守護聖達にした心理テストの結果のページを見て首をかしげている。
「どうしたのだ?」
「あ、えっと・・・じ・・・・じ・・い?」
「????」
皆が不思議そうにアンジェリークを見る。
「自慰行為欲求度? こうやって読むのかな?」
ぶばびゅうっっっ
瞬間、ジュリアスが口に含んでいた紅茶を噴き出した。
さすがのクラヴィスも口の端がひきつり、オスカーは持っていた紅茶のカップを落とし、
リュミエールは穏やかな笑みを浮かべたまま固まった。
「何だかよくわからないけど、とりあえず結果をそのまま読みますね。
えーっとですね、一問目の結果は
“あなたが自慰行為をしたいと潜在的に思っている場所”ですって。
二問目の結果は
“1.自慰行為にあまり興味がない
2.あなたの欲求度は普通
3.ちょっとやり過ぎかな? 少し控えましょう”ですって。
それで三問目が“あなたが自慰行為をしてみたい時間帯”なんですって。
で、四問目が“自慰行為の習慣性”ですって。
最後が“自慰行為が終わった後のあなたの気持ち”って書いてあります。
───けど、自慰行為ってなんですか?」
すらすらと淀みなく読み上げ、あまつさえ天真爛漫に『自慰行為』について質問をしてくる
アンジェリーク。
四人の守護聖は声を発するどころか、ぴくりとも動くことさえできなかった。
「・・・あら? 皆さんどうしたんですか?」
あどけない顔の少女。
おそらくというか、絶対的にその意味は知らないであろう金の髪の少女。
「──────アン・・・ジェリーク」
地獄の底から絞り出たような声を発したのは、
『テレビの前で』で『ちょっとやり過ぎかな? 少し控えましょう』で『早朝』で
『一日一回というよりも、朝・昼・晩と一日に三回』で『気分が良い、また次も頑張ろう』の
ジュリアスであった。
「はい? 何でしょう、ジュリアス様?」
「・・・その本はどうしたのだ?」
「え? これはルヴァ様にいただいたんです・・・け・・」
ゆらり、とイスから立ち上がり、近づいてくるジュリアスに何となく後ずさるアンジェリーク。
「その本を───」
「?」
「今すぐルヴァに返してくるが良い・・・」
普段の声よりもかなり低く、アンジェリークは今までに感じたことのない恐怖を覚えた。
「で、でも・・・」
「アンジェリーク───」
「わ、わかりました!」
ほぼ殺気ともとれるジュリアスの全身から発するオーラに押されて、アンジェリークは
クラヴィスの執務室を飛び出した。
一方残された守護聖達はジュリアスを除いてそのまま静かに座っていた。
「───ちょっと控えた方がいいのではないか?
さすがにおまえも朝・昼・晩とでは疲れるであろう・・・」
意地悪い笑みを口元に浮かべるクラヴィス。
「〜〜〜〜〜っっっ!!!!!!!」
怒りのあまりか、それとも痛いところをつかれたのか、絶句するジュリアス。
「まぁ、お前が何をしていようと私には関係ないが・・・
それよりあの娘、よほど慌てていたのだろう。
───結果を書いた紙まで持って部屋を飛び出していったぞ」
クラヴィスの言う通り、見れば先ほどまであった紙が無くなっている。
慌てたのはジュリアスとリュミエールであった。
「アンジェリーク!」
「待ってください、アンジェリーク!」
ジュリアスとリュミエールの悲愴な声が聖殿に響く。
だが、ルヴァに『結構当たっている(?)』心理テストの結果とアンジェリークに
『自慰行為』の意味を知られるのは時間の問題なのであった・・・
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