遥かな旅路のはてに エピローグ
あれから、ただ茫然としているアンジェリークを連れて、エルンストとヴィクトールは
国王の元に戻った。
トランシルヴァニアの町は廃墟と化し、街にいた全員が姿を消していた。
また、同じように原因不明の病気にかかっていた人達もいなくなっていた。
全ては伯爵の言う通りであったのである。
国王はエルンスト達に何があったのか、どうなったのかを説明するように求め、エルンスト達は
自分達が見てきたことを正直に話した。
貴族達の中には信じられない話を聞き、眉をひそめる者もあったが、他に説明のつけようがなく、
この原因不明の病気の件に関しては打ち切りとなった。
あれから自分の部屋にこもりがちなアンジェリークを心配し、ヴィクトールは毎日彼女の様子を
見にきていた。
オスカー伯爵の願いであり、終止符を打たなければ多くの人達がもっと苦しむとわかってはいても、
彼を殺してしまったという思いがアンジェリークを苦しめていたのである。
「今はそっとしておいた方がいいですよ」
エルンストの言葉は冷たいようであっても、正しかったと言える。
涙すら流すことのできない彼女に対し、ヴィクトールは何もすることができなかった。
やがて季節が移り変わり、雪が舞う季節になってアンジェリークは少し落ち着いてきたようであった。
「いろいろとありがとうございました、ヴィクトール様」
「アンジェリーク・・・」
「私ならもう大丈夫です」
気丈に振舞うアンジェリークの細い体をヴィクトールが優しく抱きしめた。
「きっと・・・伯爵様は『アンジェリーク』さんと幸せに暮らしていますよね?」
「───残った者の願望でしかないが、そうであると俺も信じている」
「ですよね・・・」
「先に逝ってしまった者のことは俺にはわからん。
だが、残った者、残された者はそう願い、そう思うことで生きていける・・・
いや、生きていかねばならん。
アンジェリーク、お前もそうだとは思わんか?」
「ヴィクトール様・・・」
涙がアンジェリークの瞳からとめどなくあふれ、ヴィクトールの軍服を濡らした。
「気が済むまで泣け、そして泣き終わったらいつもの元気なお前に戻れ。
泣いているお前を見ていると伯爵も幸せになれんだろうからな」
「・・・は・・い」
「俺はずっとお前の側にいて、お前が望むなら・・・お前をずっと支えてやる」
「ヴィクトール・・・様」
───半年後、二人を祝う教会の鐘が鳴り響いた。
「おめでとうございます、ヴィクトール、アンジェリーク」
「ありがとう、エルンスト」
「エルンスト様、ありがとうございます」
純白のウエディングドレスに身を包んだアンジェリークを眩しそうに見つめながら、エルンストは
二人を心から祝福した。
国王をはじめ、大勢の人々が二人の結婚を祝う中、一人の少女が花を持ってアンジェリークの所に
やってきた。
「おめでとう、おねえちゃん!」
「ありがとう」
「あのね、このおはなをおねえちゃんにって」
「?!」
「この・・・花は・・・」
それはあのブラム城で咲き乱れていた、一輪のクリスタルローズであった。
クリスタルローズはアンジェリークを祝福するかのように、陽の光の中、キラキラと美しく輝いていた。
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