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光と闇そして・・・




「な・・・な?」
ジュリアスは驚きのあまりその場に立ちすくむ。
普通なら、青筋を立てて怒りの言葉を発するのだが、あまりの信じられない光景に
目が点になっていた。
忙しい執務が終わり、愛しい金の髪の女王候補を連れて私邸に戻った時の出来事だった。
「───邪魔するぞ」
「ク・・・クラ・・・!」
「こんにちわ! クラヴィス様」
クラヴィスがジュリアスの私邸にいることに、別に何も感じず、にこやかに挨拶をする
アンジェリーク。
だが、ジュリアスの心中は穏やかではなかった。
光と闇。
正反対ともいえるサクリアを司る守護聖。
互いの私邸に行き来するような仲でもなく、おまけに金の髪の女王候補の取り合いとなって
いるいわばライバルである。
なぜこの者が私の私邸にいるのだ?!
ジュリアスは茫然と、目の前のクラヴィスを見つめていた。
そんなジュリアスを見て、クラヴィスは皮肉そうな笑いを一瞬浮かべたが、すぐに真面目な
顔になってジュリアスに頼み込んだ。
「・・・匿って(かくまって)くれ」
「─────────あ?」
間抜けな声を出すジュリアス。
「匿ってくれ」
だるそうに話してはいるが、クラヴィスの目つきは真剣だった。
「匿うとは・・・どういうことなのだ?」
「───フッ、そんなこともわからないのか?
 匿うとは『追われている人などを(自分のもと等に)こっそり隠しておく』という意味だ」
「クラヴィスっ! そんなことはわかっている!
 いったい何から、誰から匿うというのか、と聞いているのだ!」
「・・・リュミエールからだ。
 ここならば、さすがにあやつも私がいるとは思うまい・・・」
意外な人物の登場にジュリアスは少し驚きの声をあげる。
「リュミエール?」
「そうだ、絵のモデルになれとうるさかったので、好きにすればよいと答えた・・・」
「ならば何も隠れなくても良いではないか」
ジュリアスの言葉にクラヴィスがふと床に目を落とした。
それはどこか寂しそうな感じであった。
「─────ソファに腰掛けている私を描きたいと言って、私はソファに座った。
 いつしか、そのまま私は眠っており、リュミエールに起こされた」
「ふむ」
「絵が一応出来上がったと嬉しそうに見せにきたのだが・・・」
「ふむ」
「その絵が──────」
それきり黙りこんでしまったクラヴィスにせかすようにジュリアスが尋ねる。
「絵がどうしたというのだ?」
「・・・・・」
クラヴィスは軽くため息をつくと、リュミエールの描いた絵について話し始めた。
「リュミエールが描いたのは確かに私だった。
 だが、それは私であって私ではない・・・」
「?」
ジュリアスとアンジェリークは不思議な顔で見つめあう。
クラヴィスが言わんとしていることがいまいち理解できなかったのだ。
そんな二人をよそにクラヴィスはぼそぼそと続きを話し始める。
「───顔は確かに私を描いている、誰が見ても私の顔だ。
 問題はその後だ・・・
 背景はソファではなく、蒼い海。
 空には落書きとしか思えない渦巻きの太陽。
 砂浜には私が赤いふんどしだけ身につけたマッチョ姿で、腰に手をあてて牛乳を飲んでいる。
 ───そのふんどしには金や銀色で龍の絵が・・・」
「う゛」
思わず想像してしまったジュリアス。
「それでも、筋肉部分やふんどし姿がまだ描ききってないとかで・・・
 私のふんどし姿をデッサンさせろと───」
クラヴィスの表情は疲れきっていた。
最近とみに暗いと思ったのはそのせいだったのか・・・
さすがのジュリアスも同情し、とりあえず客室に案内しようとしたその時だった。
「クラヴィス様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜!!!!!」
ばんっ!
大きな音がして、ドアが開き、リュミエールが飛び込んできた。
「あ゛」
とクラヴィス。
「え゛」
とジュリアス。
「きゃ!」
とアンジェリーク。
「逃げてはダメじゃないですか。
 ちゃんとデッサンさせていただけないと、絵が完成いたしません」
「リュ、リュミエール・・・」
「ちゃんとデッサン用具と赤いふんどしを持ってきました。
 さぁ、そのずるずるした服を脱いで、このふんどしを身につけてください」
「い、いや・・・」
普段感情を表に出すことのないクラヴィスの顔が思いっきりひきつっている。
リュミエールは穏やかに微笑みながら、自分の胸元から赤いふんどしを取り出した。
「大丈夫です、ちゃんと温めておきましたから」
赤いふんどしをつきだしながら、じりっじりっとクラヴィスの方ににじり寄っていく。
「お、落ち着け・・・」
クラヴィスは心底困った、という顔でジュリアスとアンジェリークに視線を送る。
リュミエールはその視線の先を捕らえ、そこにアンジェリークの姿を認めると、いきなり
アンジェリークの側に寄って、柔らかいほっぺたをつねりあげた。
「ひ、痛いです! リュミエール様!」
「貴女がいるからクラヴィス様は私にデッサンさせてくれないのですよ」
にこにこ笑いながらも、力を加えるリュミエール。
「本当に貴女は目障りな存在ですね、アンジェリーク。
 私のクラヴィス様の周りをちょろちょろしないでいただけますか?」
こ、恐ひ。
アンジェリークは恐怖におののいた。
口元は笑っているのにも関わらず、目が完全にイってしまっている。
ぐりぐりとほっぺたを捻りあげ、涙顔のアンジェリークを見て満足をしたのかリュミエールは
再びクラヴィスの方を向き直った。
「さぁ、クラヴィス様、邪魔者は排除いたしました。
 どうぞお気になさらず脱いでください」
まさにリュミエールがクラヴィスに飛びかかろうとした時、ジュリアスの声が部屋に響いた。
「ちょ、ちょっと待て、リュミエール」
「おや、ジュリアス様、ごきげんよう」
「リュミエール、そなたはなぜここにクラヴィスがいると───」
ジュリアスの質問に、リュミエールは満面の笑顔で答えた。
「愛の力、といいたいところですが・・・」
クラヴィスに歩み寄り、服の前の方から小型のボタンらしきものを取って見せるリュミエール。
「ふふふ、発信機ですよ、ジュリアス様。
 ゼフェルに頼んで作ってもらいまして───
 これは優れもので、カメラもついているのですよ。ふふふ・・・」
「あが」
クラヴィスがうめいた。
「カ、カメラということは・・・」
「ええ、クラヴィス様の行動を全て把握するためです。
 何時ごろにトイレに行かれ、どれぐらいの時間で出てこられた、とか」
涼しい顔で答えるリュミエールに、ジュリアスは二の句が告げなかった。
リュミエールに比べて、オスカーの何とまともなことだろう・・・
クラヴィス、そなたは恵まれてはおらぬようだな───
ジュリアスが内心そんな事を考えていたまさにその時。
「ファイアー!!!」
馬の嘶きとともに大きな雄たけびが聞こえ、窓ガラスが派手な音をたてた。
散らばる破片に混じって、部屋に飛び込んできたのはオスカーだった。
「ジュリアス様!」
「え゛」
とジュリアス。
「あ゛」
とクラヴィス。
「きゃ!」
とアンジェリーク。
「お゛」
とリュミエール。
「貴方のオスカー、只今参上いたしました!」
キラっと光る歯を見せて、オスカーがポーズを決める。
「オ、オ、オ、オスカー・・・」
「執務で遅くなって申し訳ありません。
 お困り事ですね! すぐに解決いたします!」
最敬礼をして、オスカーがアンジェリークの側に寄る。
「お嬢ちゃん、申し訳ないがジュリアス様から離れてもらえないか?」
ジュリアスの背後にしがみついていたアンジェリークをべりっと引き離し、剣を抜くオスカー。
「きゃああああ!」
「や、やめぬか! オスカー!」
「いえっ、やめません!
 このお嬢ちゃんのせいで、最近貴方の態度がおかしくなったのです!」
「ふふふ、そうですよね、オスカー。
 私のクラヴィス様がおかしくなったもの、すべてこのアンジェリークのせいなのです」
「ああ、そうだぜ、リュミエール!
 さぁ、お嬢ちゃん、今すぐここを出て行かないと大変なことになるぜ? ん?」
ずいっ。
とオスカーがアンジェリークに歩み寄る。
さらにオスカーの背後からはリュミエールがいつの間に取り出したのか、ハープの弦を両手に
ぴん、と張ってアンジェリークに近寄ってきていた。
や、殺られる・・・
アンジェリークはガタガタ震えながら外へ飛び出した。
「ご、ごめんなさぁ〜い!」
「ああっ、アンジェリーク!」
「アンジェリーク!」
ジュリアスとクラヴィスの切なそうな声は、アンジェリークに届くことはなかった。
アンジェリークが出て行ったのを見て、オスカーはリュミエールと満足気に微笑みあった。
「やりましたね、オスカー」
「ああ、これで邪魔者はいなくなったな」
ジュリアスとクラヴィスは、ただアンジェリークの出て行った後を茫然と眺めている。
「さて・・・クラヴィス様、邪魔者は去りました。
 私の私邸に行って、デッサンの続きをいたしましょう。
 ここでデッサンをさせていただいても良いのですが、私はオスカーとジュリアス様の邪魔を
 したくはありませんから・・・」
リュミエールはもの凄い力でクラヴィスを担ぎあげると、ごきげんよう、と言って部屋を出て行った。
「さすがだぜ、リュミエール───」
それを見送ったオスカーがジュリアスに向き直る。
「え゛」
「やっと静かになりましたね、ジュリアス様」
「オ、オスカー、落ち着くが良い・・・」
「今日、貴方はトイレに4回行かれましたが、いつもより1回、回数が多かったのは何故です?
 それも最後の1回がやたら長く、鼻歌まじりで鏡の前でその美しい髪の毛を整えて決めポーズを
 していましたが、それもあのお嬢ちゃんのためですか?」
「・・・な゛?!」
ジュリアスが、おそるおそる自分の服に手をやると、そこには───
「貴方は守護聖の首座であられます。
 貴方にもしものことがあれば、このオスカー、生きてはいけません」
リュミエール同様、涼しい顔をして答えるオスカー。
ずいっ、ずいっ、とせまってくるオスカーを前にジュリアスは泣きそうになっていた。
───クラヴィス、すまなかった、前言撤回だ。
心の中でクラヴィスに謝りながら、どのようにしてこの場から逃げ出そうかと必死で考えて
いるジュリアス。

そんなオスカーとジュリアスの様子を外から見ながら転げまわって笑っている守護聖が一人。
「ケケケっ! ザマーみろってんだ!
 おっさんらはおっさんらしくしとけっての!
 ───っと、アイツのとこに行かねーとな・・・
 今ごろびびって泣いちまってるかもしれねーからな!」
紅い瞳の守護聖は、ひらりと身を翻し、アンジェリークの寮へと走っていくのであった。



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