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仔猫アンジェ ゼフェル様編 2




こうしてゼフェルと子猫の生活が始まった。
子猫アンジェとの生活はゼフェルにとって大変な反面、とても楽しいものだった。
朝、子猫アンジェの顔面肉球起こしに始まり、朝の食事を一緒に取る。
───もちろん子猫アンジェの食事はミルクである。
食事が終わると、子猫アンジェのトイレタイムである。
トイレは部屋の隅についたてを置いて用意してあり、子猫アンジェはそこで用を足す。
「くっせーな! ったくよ、こんなでかいのしやがって!」
「にゃっ!」
ぶつぶつ言いながらも律儀に後始末しているゼフェル。
トイレタイムが終わると小さ目のバスケットに子猫アンジェを入れて執務室へ出勤。
ゼフェルの執務中、ちょっかいを出しにくる子猫アンジェ。
ペンを走らすと、そのペンを目で追い、その後、ペンに向かって猛ダッシュをかけてくる。
「わっ、バカっ!! よせってんだろー!!!」
しばし執務を中断し、子猫アンジェが丸くなって眠りにつくと執務を再開。
気持ちよさそうに眠っているアンジェを横目で見ながら、ついついため息の出るゼフェルだった。
「・・・オメーはいいよなぁ───ったく」
執務が終わるとゼフェルは子猫アンジェをバスケットに入れ、再び私邸に戻る。
私邸のゼフェルの部屋でバスケットを開けると子猫アンジェは、たったかたったかと嬉しそうに
部屋を走り回り、何か機械の部品らしいものを見つけては一人で遊ぶ。
「おい、変なもん飲み込むなよ! わかってんのか?」
「にゃ」
話しかけられたことはわかるのだろう、一時遊びを中断して、子猫アンジェは返事らしきものをする。
ひとしきりゼフェルの部屋で遊ぶと、夕食タイムがやってくる。
子猫アンジェの夕食メニューは再びミルクである。
「ミルクばっかだけどよ、まさかオメーにキャットフード食わすわけにもいかねーしな」
「にゃう」
食事が終わると、ゼフェルはお風呂に入り、その後就寝。
ゼフェルが布団に入ると子猫アンジェも布団に入ってくる。
大きな羽根枕のゼフェルの顔の側で真ん丸くなって眠る子猫アンジェ。
「・・・けっこー・・・こーいうのも悪くねーな・・・」
そんなこんなで三日が過ぎ、四日目に事件が起こった。
子猫アンジェとの生活も四日目に入った日の曜日のことである。
この日は朝早くからゼフェルは自慢のエアバイクの整備を行っていた。
エアバイクをいったんばらして、部品を一個一個きれいに磨いていく。
食事は作業をしながらできるように栄養バランスがとれる固形のクッキー、ミネラルウォーター
数本である。
しばらくはおとなしくしていた子猫アンジェだったが、ゼフェルに体をすりつけ、“遊ぼう”
と言うようにみゃごみゃご鳴いていた。
それを受けてゼフェルの方も最初は
「ああ、わかったわかった。
 これが終わったら遊んでやるよ、ちょっと待ってろ!」
と答えていたのだが、いつまでたっても自分と遊んでくれないゼフェルに業を煮やしたのか、
いきなり子猫アンジェが工具箱をひっくり返した。
「みゃう!」
「テメー何すんだよっ!!
 部品がバラバラになっちまったじゃねーかっっ!!!
 何が“みゃう!”だ! この、バカ猫っっっっっ!!!!」
カッとなったゼフェルは、思わずカラになっていたミネラルウォーターのペットボトルを
子猫アンジェにあたらないように投げつけた・・・はずだった。
しかし、運悪く、よけようとした子猫アンジェの頭に命中。
「にゃっ!」
人間には大した大きさではないペットボトルだろうが、子猫にとっては驚くのに充分だった。
子猫アンジェはゼフェルの部屋の開いていたドアのすきまから脱兎のごとく走り去っていったのである。
「ケッ! しばらく帰ってくんな!」
ゼフェルは散らばった部品を拾いながら、子猫アンジェが出て行ったドアを見ながら悪態をつき、
再びエアバイクの整備に没頭し始めた。

───どのくらい時間が経ったのか、ゼフェルが満足そうにエアバイクを組み立て直した頃には
とっぷりと日が暮れていて、おまけに外では雨が降り出していた。
「・・・これでよし! 
 おい! 終わったから遊んでやるぜ・・・
 って、さっきオレが追い出したんだっけか───」
投げつけたペットボトルが転がっているだけで、どこにも子猫アンジェのいる気配はない。
「───ま、もう少しすっと腹へって帰ってくるだろ。雨も降ってきたことだしよ」
呟いて、ベットにごろんと転がるゼフェル。
だが、どれだけ待っても子猫アンジェが戻ってくる気配はなかった。
雨はどんどんひどくなってきているようで、窓ガラスに叩き付けられる雨粒の音がそれを物語っていた。
「くそっ!」
いてもたってもいられなくなり、ゼフェルは舌打ちをすると部屋を飛び出した。
私邸の人間に聞いてみたが、誰も子猫アンジェの姿を見た者はなく、全員が手分けして一生懸命探しても
私邸の中にはいなかったのである。
「あの・・・バカ猫がっ!」
ゼフェルは吐き捨てるように言うと、傘もささずに私邸の外へ出て行った。
「おい! どこにいるんだよ!」
「アンジェリーク!」
「バカ猫! のー天気女!」
「返事しやがれ!」
「───アンジェリーク!!」 
どしゃ降りの雨の中、やみくもに走りながらゼフェルはアンジェリークの名前を呼ぶ。
しばらく走り回ったその時、かすかながら猫の声がしたような気がしてゼフェルは立ち止まった。
「・・・アンジェリーク?」
「──────にゃ」
声は庭の一角にある、茂みの中から聞こえてきた。
「アンジェリーク!」
「──────みゃ」
か細く、消え入るような声ではあったが、それはまぎれもなく子猫アンジェの鳴き声だった。
乱暴に茂みをかき分けると、そこには雨に濡れ、金色の体毛がぴったりと体に張り付いた
子猫アンジェが申し訳なさそうに、そしてぷるぷると震えていた。
「このっ───!」
「・・・・・みゃぅ・・」
思わずゼフェルが手を上げると、おびえたように少し離れる子猫アンジェ。
「・・・風邪引くぞ、ほら、こっちこい」
「なぅ」
いくら呼んでも子猫アンジェはゼフェルの側に寄ろうとはしない。
思い余って、ゼフェルは子猫アンジェをつかんで引き寄せた。
「バカ猫が・・・冷たくなってんじゃねーかっ!」
「みゅぅ・・・・・」
ゼフェルの体も雨に打たれ冷たくなっていたが、子猫アンジェの体の方がもっと冷たくなっていた。
「オメーは・・・本当に───」
ゼフェルはそのまま子猫アンジェを両手でしっかりと抱き、なるべく雨に濡れないように
私邸の中へと走って戻った。
すぐさま風呂が用意され、ゼフェルと子猫アンジェは体を温めるべく、大きなバスタブに身を沈める。
もちろんそのままでは子猫アンジェが溺れてしまうので、少し深めの洗面器にお湯をはり、
その中に子猫アンジェを入れ、洗面器ごと湯船に浮かせている。
「少しはあったまったか?」
「にゃぐ・・・」
さして水が嫌いということはないようで、子猫アンジェは珍しそうにふんふんと洗面器の匂いを嗅いでいた。
「オメーは、ホントに気楽だよなー」
ゆらゆらと船のように浮かんでいる子猫アンジェ入りの洗面器を自分の方に寄せて、
ゼフェルはため息混じりに話しかけた。
「そのよ・・・さっきは悪かったな───
 ペットボトルなんてぶつけちまってよ・・・」
「みぃ」
「でもよ、別にオメーにぶつけるつもりはなかったんだ・・・
 だいたいオメーがよける方向を間違うからぶつかっちまうんだぞ!」
「うにゃ」
「だけど、その・・・なんだ・・・心配したんだぜ」
「───にゃぅ」
少しうつむいたゼフェルの鼻をペロっとなめる子猫アンジェ。
「・・・オメーがよ、もし・・・もしもだぜ?
 その───元に戻らなかったら・・・
 オレがずっと・・・面倒みてやっからよ・・・」
「みゃぅ」
わかっているのかわかっていないのか、ゼフェルが何か言うたびにいちいち返事をする
律儀な子猫アンジェであった。
少しのぼせ加減のゼフェルと子猫アンジェは、湯冷めしないうちに食事も取らず、早々にベットに潜り込んだ。
「ちゃんと寝るんだぞ! わかってんだろーな!」
「にゃ!」
ゼフェルとほぼ同時に子猫アンジェも安らかな寝息をたて、眠りについた。


「きゃぁぁぁぁああああああああああ!!!!」
「・・・おわっ?! な、なんだぁっ?!」
いきなり耳元で聞こえた大きな悲鳴にゼフェルが飛び起きた。
「───って、オメー・・・」
見ればアンジェリークが生まれたままの姿で布団で胸まで隠し、真っ赤になっている。
思わず顔をそむけるゼフェル。
ゼフェルの顔もアンジェリークに劣らず赤い。
「わ、私・・・森の・・・きのこを───」
状況を把握していないアンジェリークは完全にパニックになっていた。
ふと、ゼフェルの頭にルヴァの言葉がよぎる。 
『・・・猫になっている間の記憶は残らないそうです。
 アンジェリークが元に戻った時には、あなたと一緒に森の湖に行った時の記憶からと
 いうことになりますね』
「どうして、ゼフェル様の・・・それにこんな姿で───」
「お、おい! 誤解すんな! オレは何も・・・」
「ひどい! お嫁にいけない!」
「よ、嫁って、オメー女王候補・・・」
「ひどいです! ゼフェル様!」
「ちょっと落ち着け!!」
「落ち着けないですっ!」
「あーもう! うっせーな! 
 嫁に行けねーってんなら、オレが貰ってやる!!」
ゼフェルの言葉にアンジェリークの大きな瞳がさらに大きくなる。
「だいたいテメーのウンコまでオレが始末してやったんだ!
 今さら恥ずかしいも何もねーだろうがよっっ!」
ぶつぶつと言うゼフェルの言葉はアンジェリークには多少意味不明な部分があったが、
それよりも何よりもその一つ前のセリフがアンジェリークには嬉しかった。
「本当ですか?! ゼフェル様!」
「───ウンコの話か?」
「違いますっ!! 私をゼフェル様の・・・」
ぎゅう、アンジェリークがゼフェルに抱きつく。
「バ、バカっ! 何か着ろ!!!」

こうして、アンジェリークはゼフェルと幸せな日々を送り、第256代目の女王はロザリアに決定したのであった。



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