今日も今日とて マルセル様編
今日も今日とてマルセル様は聖殿をウロウロしておられます。
マルセル様は『緑の守護聖』で人々に『豊かさ』を与えていらっしゃいます。
そんなマルセル様の性格は基本的には素直で天真爛漫、悪く言えば少しわがままなところでしょうか。
そんなマルセル様が、今日はどういうわけか落ち着かないご様子です。
いったいどうなさったのでしょうか?
───答えは簡単。
マルセル様の親友とも言える小鳥のチュピが朝から姿を見せないのです。
名前を呼べばすぐにマルセル様の所に飛んでくるチュピ。
「いったいどうしちゃったんだろう・・・」
どこかで迷子になってしまったのか、それとも何か他の動物に襲われてしまったのか。
マルセル様の心配はつのるばかりです。
執務にも身が入りません。
本当は今の時間、たまっている書類を片付けなければいけませんが、チュピの事が心配なマルセル様は
そっと執務室を抜け出すと、まず風の守護聖ランディ様の執務室を訪れました。
ランディ様もマルセル様同様、たくさんの書類に埋もれています。
マルセル様が入って来るのを見て、ランディ様はペンを置きました。
今にも泣き出しそうなマルセル様に話しかけるランディ様。
チュピがいなくなった、との説明に今度はお二人で鋼の守護聖ゼフェル様の所に行くことにしました。
ゼフェル様の執務室に入ると、ゼフェル様はとっくに仕事を終えられたらしく、ガチャガチャと機械をいじって
いるようです。
突然のお二人の訪問をうざったそうに見るゼフェル様。
ですが、マルセル様はそれに構わずチュピの事を尋ねました。
「ゼフェル、チュピ見なかった?」
「あぁ?」
「チュピがね・・・チュピがいなくなっちゃったんだ───」
うっすらと目に涙を浮かべるマルセル様。
「チュピってあのバカ鳥のことか?」
「ゼフェル!」
マルセル様の代わりにランディ様が抗議の声をあげます。
「んだよ、うるせーな!
だいたいテメーら、今執務の時間じゃねーのかよ!」
「それは・・・」
ぐっとつまるランディ様。
乱暴な口調のゼフェル様ではありますが、確かにゼフェル様の言う通りです。
「そうなんだ、だけど、僕・・・チュピが心配で・・・」
「ケッ!」
しおれたマルセル様を面白くなさそうに見るゼフェル様。
そしてゼフェル様はいきなりイスから立ち上がると、窓に向かって歩き外を指さしました。
「え?」
「あの青いの、お前が探してるバカ鳥じゃねーのか?」
マルセル様とランディ様が外を見ると、聖殿の中庭の木にもたれかかっている闇の守護聖クラヴィス様の
お姿がありました。
さらによくよく見てみると、クラヴィス様の手元に青い物があります。
「あ!」
まぎれもなくチュピでした。
「おらよ、用がすんだらとっとと出て行きやがれ! 俺はお前らと違って忙しいんだからよ!」
「ありがとう! ゼフェル!」
「ゼフェルありがとうな!」
マルセル様とランディ様はゼフェル様にお礼を言うと、ゼフェル様の執務室を出ていかれました。
執務室の外に出ると、ランディ様は執務の続きをする、と言ってご自分の執務室へ戻っていかれました。
一人ぽつん、と残されたマルセル様。
少し苦手なクラヴィス様のところへ行かなければなりませんが、チュピのところに早く行こうと意を決して
聖殿の中庭に向かいます。
中庭の木陰、大きな木の下にクラヴィス様がいらっしゃいます。
マルセル様がおそるおそる近づくと、どうやら眠っていらっしゃるようでした。
すぴーすぴーと寝息をたてて気持ちよさそうに眠っていらっしゃるクラヴィス様。
その手の中にはマルセル様がずっと探していたチュピも丸くなって眠っていました。
何とかクラヴィス様を起こさずにチュピを自分の手に戻したいマルセル様ですが、そう簡単にはいきません。
小声でチュピを呼んでみますが、ぐっすり眠っているのでしょう、起きる気配もありません。
仕方なく今度はクラヴィス様に小声で話しかけますが、クラヴィス様も起きる気配はないようです。
マルセル様は次の行動に移りました。
遠慮がちにクラヴィス様の服をつかんで引っ張ります。
ずるずる・・・ぽてむ。
木に寄りかかって眠っていたクラヴィス様の体が緑の芝の上に倒れました。
これで起きるだろう、と普通は思います。
しかしクラヴィス様が目を覚ます気配はありません。
チュピを持っている手もそのままです。
どうやらクラヴィス様は爆睡モードにはいっているようでした。
マルセル様は大きくひとつため息をつくと、クラヴィス様の手を外してチュピを取り戻そうとしました。
クラヴィス様を起こさないように、顔をのぞきこんだマルセル様。
思わずびっくりして声をあげてしまいました。
マルセル様が驚くのも無理はありません。
クラヴィス様の目は半開きで、白目だけのお顔がマルセル様の目に飛び込んできたのです。
その声に起きたのでしょうか、クラヴィス様の体が動きました。
「・・・・・・」
ゆっくり体を起こすとマルセル様がそこにいることに一瞬驚いたようですが、手の中にいるチュピをマルセル様に
そっと渡しました。
マルセル様の手に伝わるぬくもり。
チュピはこの状況の中、まだ目をとじて気持ちよさそうに眠っています。
「あ、ありがとうございます」
ふと見ると、クラヴィス様の頭にも手にもチュピの落し物がてんてんとしています。
頭の方の落し物はすでに乾いて白くガビガビになっていました。
どうしよう、とマルセル様は悩みます。
チュピの責任は自分の責任。
ちゃんとクラヴィス様にその事を伝えなくてはなりません。
しかし、先ほどの白目のクラヴィス様の寝顔がマルセル様の頭から離れません。
しどろもどろのマルセル様。
そして何か違和感を感じたのでしょうか、クラヴィス様は自分の手をじっと見ています。
「そうか───」
「え?」
何となく不吉な予感がマルセル様を襲います。
珍しくにっこりとクラヴィス様は笑うとマルセル様に近づきました。
後は推して知るべしです。
チュピの落し物がまだ乾いていないクラヴィス様の手で、頭から顔からなでくりまわされた
マルセル様が、ご自分の執務室で泣く泣く頭と顔を洗っておられたそうです。
BACK
HOMEに戻る