今日も今日とて ランディ様編
今日も今日とてランディ様は一生懸命走っておられます。
ランディ様は『風の守護聖』で人々に『勇気』を与えていらっしゃいます。
そんなランディ様の性格は爽やかで正義感の強いところ、悪く言えばちょっとアレなところでしょうか。
そのランディ様、今日はちょっとドキドキしています。
いったいどうしたのでしょうか?
───答えは簡単。
今日は森の湖でアンジェリークと二人っきりの時間を過ごしているからです。
でも別にデートではありません。
息抜きに森の湖に訪れたランディ様、たまたまそこにアンジェリークが一人でいたのです。
軽く挨拶を交わし、ランディ様はアンジェリークの隣に腰を降ろしました。
いろいろとお話をしていくうちに、心なしかアンジェリークの顔が寂しげなのにランディ様は
気がつきました。
「どうしたんだい? 元気ないじゃないか」
「あ、そんなこと・・・」
「その・・・あの・・・悩みがあるんだったら俺・・・」
アンジェリークはランディ様の気遣いが嬉しく、少し間を置くと元気がない原因を話し始めました。
「ここって・・・私が以前いたところの大好きな場所に似ているんです。
そう思ったら、なんだかちょっと懐かしくなっちゃって・・・」
つまりは軽いホームシックでした。
女王候補に選ばれてこの飛空都市で女王試験を受けているアンジェリーク。
その重圧はかなりのものでしょう。
元気がなくなるのも、軽いホームシックにかかるのも頷けます。
「そうか・・・」
「お友達とも良く遊びに行ったんです。
湖のすぐそばに大きな木があって・・・その木には穴があいていて、そこに交換日記とか
手紙とかお互いに入れて・・・」
「──────」
アンジェリークはぽつりぽつりとそんなことを話しました。
それを聞いてランディ様は何とかアンジェリークに元気になってほしいと考えました。
いつも元気に笑っているアンジェリークの顔が見たかったのです。
「ごめんなさい、つまらないお話しちゃって・・・」
謝りながらもアンジェリークは少しすっきりしたのか、ランディ様にお辞儀をして森の湖を
出て行きました。
残ったランディ様は、アンジェリークが元気になる方法を一生懸命考えました。
うーん、うーん、と知恵熱が出るぐらい考え込んだランディ様。
やがて、ある考えが浮かびました。
「そうだ、手紙だ!」
外界と隔てられたアンジェリークには友達からの手紙なんて届くはずもありません。
言葉なら、言った方も言われた方も時間とともに変化していくものですが、手紙ならそれを
無くしてしまわない限り消えるものではありません。
素晴らしい思いつきに、ランディ様はすっくと立ち上がると元気良くご自分の執務室へ戻って
いかれました。
「・・・結構、難しいもんだなぁ」
書き始めては紙を丸め、くずかごに投げ入れるランディ様。
みるみるうちに、くずかごは丸めた紙でいっぱいになっていきます。
「思ったことを書けばいい、ってルヴァ様はおっしゃったけど・・・」
そうつぶやいて、書きたいことを考えたランディ様のお顔が赤くなりました。
「ダメだ! それはちゃんとアンジェリークに直接言わなきゃ!」
何をお考えになったのでしょうか。
しばらくまた考え込んでいたランディ様でしたが、羽ペンを手に取ると、再び紙に
向かい始めました。
「これで・・・と」
紙を折りたたみ、封筒に入れて封をします。
後はアンジェリークにどうやって届けるかです。
良い手紙に限ってですが、知らされてない限り手紙と言うのは突然届き、またそれが嬉しい
ものです。
自分が届けてしまってはその嬉しい驚きも半減してしまいます。
見つからないようにこっそり届けに行くことも考えましたが、姿を見られないとは
限りませんし、他の守護聖様にお願いするわけにもいきません。
そこでランディ様は仲良しの犬に手紙を届けてもらうことにしました。
以前アンジェリークと公園で一緒になった時にいた犬です。
名前はアルフレッド君。
早速ビーフジャーキーを持ってアルフレッド君の所に向かいました。
「ワン!」
アルフレッド君は大喜びでランディ様にじゃれつきます。
「はは! くすぐったいよ、アルフレッド!」
ランディ様は用意していたビーフジャーキーをアルフレッド君にプレゼントしました。
「ワンワン!」
お礼のつもりでしょうか、短く鳴いた後、お行儀良くビーフジャーキーを食べる
アルフレッド君。
食べ終わると、ごちそうさまでしたと言うように再び短く鳴きました。
頭を撫で、ランディ様はしゃがんでアルフレッド君の目線に合わせると、封筒を取り出しました。
ふんふん、と臭いをかぐアルフレッド君。
「いいかいアルフレッド、この手紙をアンジェリークに渡してほしいんだ」
アルフレッド君は首をかしげています。
「アンジェリークだよ、前に公園で会った事があるだろ?
ほら、あの女の子!」
「・・・ワン!」
わかった! というように尻尾をぶんぶん振るアルフレッド君。
ランディ様に差し出された手紙をくわえるとどこかへ走っていきました。
さて、気になるランディ様の手紙の内容は何だったのでしょうか?
ちょっとのぞいてみましょう。
『突然の手紙で君は驚いただろうね。
でも、君の元気な顔が見たくって手紙を書いたんだ。
俺・・・うまく言えないけど、君にはいつも笑っててほしい。
もし良かったら、今度の日の曜日、森の湖で一緒に時間を過ごさないか?
いろいろと話をしたいこともあるんだ。
11時に俺は森の湖にいるよ、君を待っている。
ランディ
追伸 もし、この手紙が届かなかったら俺に知らせてくれないか?
そうすれば君に手紙が届かなかったってことがわかるから。』
そして日の曜日、そわそわとアンジェリークを待つランディ様。
しかし、待てど暮らせどアンジェリークは現れません。
───結局、手紙は届いていませんでした。
アルフレッド君が大事に土の中に“ランディ様に貰った宝物”として埋めていたのです。
心配そうなランディ様をよそに、何も知らないアンジェリークはその頃、
まだ自分のベッドでぐっすり眠っていました。
「どうしたんだろう、ちゃんと手紙が届かなかったのかな?
でも手紙が届かなかったら知らせてくれって、俺書いたはずなんだけど・・・
あ、そうか!
午前と午後って書いてなかったからアンジェリークが時間を間違えたんだ!
ハハハハハ!」
───いえ、そういう問題ではありません、ランディ様。
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