LOVE
「アンジェリーク!」
走ってくるアンジェリークを嬉しそうに迎えるランディ。
休日にはこうやってお互いに一緒に過ごす日が続いていた。
「今日はどうしようか?」
「今日も思いっきり身体を動かしたいです、ランディ様」
「よし、じゃあ日向の丘にでも行かないか?」
「はい」
早足よりは駆け足に近い歩みでランディとアンジェリークは日向の丘へ向かう。
途中の遊歩道では、小鳥がさえずり、小川のせせらぎが聞こえてくる。
心落ち着く光景を見ながらも、アンジェリークは心穏やかではなかった。
「ちょっと休憩しないか? アンジェリーク」
「あ、はい」
日向の丘に遊びにきた子供達と鬼ごっこやかくれんぼをして遊んだ後、二人は並んで腰を降ろした。
「これ、今朝作ってきたんですけれど・・・」
バスケットの中から飲み物と一緒に可愛いお弁当箱を差し出すアンジェリーク。
中にはランディの好きなホットドックが入っている。
「うまそうだね! ありがとう、アンジェリーク!」
本当に嬉しそうにお礼を言ってホットドックを頬張るランディを悲しそうに見るアンジェリーク。
「・・・これ、うまいよ!
───アンジェリーク?」
「あ、あ・・・本当ですか?」
「どうしたの?
そんな悲しそうな顔をして・・・俺と一緒にいるのが楽しくない?」
どきん。
アンジェリークの心臓が鳴る。
楽しくないわけじゃない。
だけど、あの人と一緒だったら・・・もっと・・・
「アンジェリーク?」
「な、なんでもないんです、ちょっとはしゃぎ過ぎちゃったみたいで・・・」
「───そうか。
ごめんな、俺、アンジェと一緒だったから嬉しくってつい・・・
君のこともっとちゃんと考えなきゃな───」
「ランディ・・・様」
「今日はもう帰ろう、ゆっくり休むといいよ。
俺、送って行くから」
「・・・・・・・」
違う。
ランディ様のせいなんかじゃないんです。
私が悪いんです、ランディ様。
ランディに送ってもらったあと、脱力してアンジェリークは座り込む。
思いっきりはしゃいで、身体を動かして、疲れて、何も考えずに眠れる。
ランディとのデートの後はいつもそうだった。
だから。
だから、ランディを選んだ───
大好きだけど手の届かない人。
大好きだけど私には愛の言葉を囁いてくれない人。
私って・・・なんて嫌な子なんだろう・・・
なんてずるい子なんだろう・・・
「アンジェリーク、具合はどう?」
翌日、アンジェリークの部屋をランディが訪れた。
その姿に一瞬、動揺するアンジェリーク。
「ランディ様・・・その髪・・・」
「あ? これ?
昨日さ、ゼフェルのところに行ったんだ。
あいつ今、ロボットを作っててちょうど色づけしてるとこだったんだけどね、
ふざけてスプレーを吹き付けてきてさ・・・とれなくて困ってるんだよ、まったく・・・」
あの人と一緒の赤い髪。
背丈も容姿も声もまったく違うのに、一瞬だけどどきっとした。
「アンジェ? 熱でもあるの?」
そっとアンジェリークのおでこに手をやろうとしたランディ。
「な、なんでもありません・・・風邪です」
拒否するかのように布団の中にもぐってしまうアンジェリーク。
「───ごめんさない、ランディ様。
ランディ様に風邪がうつっちゃうといけないので・・・」
「あ・・・お、俺こそごめん!
───じゃあゆっくり眠って早く風邪を治して・・・また・・・その・・・」
「・・・・・・」
「いや、な、なんでもないんだ!
あの、こ、ここにプリンとかゼリーとか飲み物を置いておくから・・・」
「──────」
何も言わず、ただ布団にくるまっているアンジェリークに“じゃあ、また”と言ってランディは部屋から出た。
ごめんなさい。
ごめんなさい、ランディ様。
私、やっぱり・・・あの人が───
「おや、元気がありませんね、ランディ様?」
「セイラン───」
とぼとぼと歩いているランディを見つけて声をかけてきたのは感性の教官のセイランだった。
「元気だけがとりえの貴方が・・・」
「悪いが、今日は君の挑発には乗らないよ、俺」
「挑発だなんて───」
いいかけて、セイランの表情が固くなる。
いつになく真面目そうで、それでいて哀しそうなランディの顔を見たせいだろうか。
「アンジェリークのことですか? ランディ様?」
「・・・・・・」
「もういい加減、あきらめたらどうです?」
「セイラン───」
「無粋な事を承知で申しあげますが───」
「セイラン!」
セイランが何を言いたいのかは良くわかっていた。
アンジェリークをあきらめろ、と。
アンジェリークには好きな奴がいるから、と。
そしてそれは炎の守護聖、オスカーだということを。
「おや、いつもの貴方にお戻りですね。
そう、アンジェリーク、彼女には───」
「やめろ、セイラン!」
「やめてどうするんです?
現実から目をそむけるんですか? ランディ様?」
「それ以上言うと・・・」
「言うと?」
半ば面白がるように尋ねてくるセイランに背を向けて、ランディは走り出した。
「やれやれ、気が短いことだ・・・」
ランディの背中に向けて呟き、セイランはアンジェリークの部屋へ足を向けた。
「アンジェリーク?」
軽くドアをノックして、アンジェリークの部屋のドアをあける。
「・・・セイラン様・・・」
がばっと布団をはねのけ、アンジェリークが衣服を整えた。
「具合でも悪いのかい?
もっとも、それは精神的なものからくることだろうけどね」
「セイ───」
「僕は君がそんな人間だったってことにいささかがっかりしているよ、アンジェリーク」
「・・・・・・」
全てはお見通しなのだろう。
言葉はきついが、口調はそれほどでもない。
「今の君は輝きを失ってしまっている。
それは、自分のせいだってことも君は良く知ってるはずだよね」
「──────」
「ランディ様もおかわいそうに・・・
君が決して振り向かないのを知っていて、君に一生懸命なんだから・・・」
「セイラン・・・様・・・」
「新しい宇宙の女王を目の前にこんな口の聞き方をするなんて失礼だとは思うけど、
そんな君なんて、オスカー様の目にもとまらないよ。
オスカー様はあの金の髪の女王とともに生きていらっしゃる。
女王の休みの日には二人で出かけていることだって、変わらぬ愛を誓っていることだって君も知っているだろう?
あの二人に君が入り込む隙はない」
そんなことわかっている。
言われなくたって充分わかっている。
だからこそ、あきらめた。
だからこそ───
「それなのに、君はいつまでもあきらめがつかずに、オスカー様の穴埋めにランディ様を利用───」
「セイラン様!!」
「迷惑なんだよ、君が。
いい加減に悲劇のヒロインぶるのをやめた方がいいんじゃない?
見ていてうっとうしいだけだよ」
「私・・・そんな───」
「はっきりさせた方が君もすっきりすると思うよ。
それに君の気持ちはランディ様もとっくに知ってらっしゃるしね」
「!」
「気付いてないとでも思ってたのかい?
───幸せだね、君は・・・まったく、あきれて物が言えないよ。
このままランディ様を生殺しにでも───」
ぱしっ!
乾いた音が響いた。
セイランの頬が赤く、また、頬を打ったアンジェリークの手も赤くなっていく。
「で、出て行ってください! セイラン様!」
「───そうだね、そろそろ退散するとするかな。
・・・人間てさ、正論を言われると腹が立つ生き物だからね・・・」
パタンと音がして部屋からセイランが出ていく。
閉じたドアに身体を預け、皮肉そうな笑みを浮かべるセイラン。
「フッ・・・僕としたことが敵に塩を送る真似をするなんてね・・・
まぁ、憎まれ役でも構わないか───
アンジェリーク、君のそんな悲しそうな顔ばかり見てるよりは・・・」
「・・・・ランディ様が・・・そんな・・・」
セイランの言葉が頭をグルグル回る。
ランディ様、私の気持ちを知っていて───
それでも、なお───
「ランディ様───」
どれだけ嫌な思いをさせてしまったんだろう。
もし、自分がランディと同じ立場だったら、ランディのように振舞えただろうか。
いろんなことが頭の中をグルグルと回る。
───はっきりさせないといけない・・・
自分の気持ちを整理した上でアンジェリークが行動を起こしたのはそれから二日経ってのことだった。
「よぉ、お嬢ちゃん、そんなに息を切らしてどうしたんだ?
───そんなに俺に会いたかったのか?」
いつもと変わらない口調でオスカーがアンジェリークを迎える。
「オスカー様・・・」
「───どうした? お嬢ちゃん?」
「私・・・オスカー様が好きです!
とても好きです!」
いきなりのアンジェリークの告白にとまどうことなく、オスカーは悠然と構えていた。
「お嬢ちゃん・・・俺は───」
「知っています、オスカー様が女王陛下のことを好きだってことも・・・
そして二人が想いあってるってことも・・・」
「──────」
「だから、私・・・・ひどい事・・・を」
「ランディにか───」
「オスカー様・・・」
驚いたようにオスカーを見るアンジェリークに、優しい笑顔を見せながらオスカーは話を続けた。
「あいつだって、子供じゃない。
ましてや惚れた女性のことなんだ、ちゃんとわかってるさ。
───なぁ、お嬢ちゃん、ランディといる時は全く楽しくなかったか?
顔を見るのも嫌なぐらいだったか?
言葉を交わすのも嫌なぐらいだったか?
・・・俺にはお嬢ちゃんもアイツのことが好きだったように見えたがな」
「それは・・・その・・」
「なら、ちゃんとアイツを一人の男として見てやってくれ。
俺の影を重ねることなく・・・な」
「でも・・・」
それは虫が良すぎるんじゃ・・・という表情のアンジェリークに再び笑顔を見せながらオスカーが答える。
「大丈夫だ、アイツも器の狭い人間じゃない、いや、むしろ大きな人間だ。
お嬢ちゃんのことを第一に考えて、お嬢ちゃんの気持ちを何よりも優先させることぐらい
今のアイツには何でもないことだろう」
「──────」
「お嬢ちゃんの気持ちは、何より嬉しいぜ。
だけど、俺は、あの女王陛下とともに生きようと決めた。
生涯、愛の言葉を交わすのは、あの方以外には考えられない
お嬢ちゃんのことは、好きだぜ。
・・・だがな、好きと愛しているは違う」
───そんなあなただから私は・・・
───そんなあなただから好きになりました。
「ありがとう・・・ございました」
「・・ありがとう、アンジェリーク」
何かをふっきれたような顔のアンジェリークを見て、オスカーはアンジェリークの額にそっと唇をあてた。
初めて名前を呼ばれた。
初めて私に触れてくれた。
そして私の告白を苦い思い出にしないでくれてありがとう。
ぺこっと頭を下げて、アンジェリークはオスカーの前を辞した。
「いい女になるんだぜ、アンジェリーク」
辛い気持ちがないわけじゃない。
だけど、それ以上にランディ様は辛かったはず。
もう、迷わない。
全てを正直にランディ様に話して、一からやり直そう。
涙が流れているのを拭いもせず、毅然とした態度でアンジェリークは歩いていた。
その姿は、新しい宇宙の女王になった時よりも美しかった。
何度かためらった後、アンジェリークはランディのいる風の館のドアを開けた。
「ランディ様・・・」
「やぁ、アンジェリーク、具合はどう?
少しは良くなった?」
アンジェリークの姿を見て、すぐにランディが駆け寄ってくる。
「───どうしたんだい? 何かあったのか?」
「私・・・私、ランディ様にお話しなきゃいけない・・・ことが───」
「ん? なんだい?」
「私は・・・オスカー様が好きでした。
今もその気持ちは───変わっていません。
そして、ランディ様と一緒にいることで、オスカー様と一緒にいるような、そんな───」
「・・・何も言わなくていいよ、アンジェリーク。
辛かっただろう? ごめんな、辛い思いさせちゃって・・・」
「ラン───」
「俺はアンジェリークが好きだ。
だから君がそんな顔をしているのは見たくないんだ。
俺と一緒にいることで君の気持ちが少しでも軽くなるんだったらそれでいい」
ランディは一度そこで言葉を切って、アンジェリークの顔を見つめた。
「君に触れても・・・いいかな?
何だか、君が消えてしまいそうで───」
返事の代わりに小さく頷くアンジェリークを抱きしめるランディ。
「俺さ・・・俺だって男だから、力ずくでも君を手に入れることだってできる。
だけどそれは俺の自己満足でしかない。
俺にとって何より大事なのは、君の気持ちなんだ。
君が大事なんだ───」
泣いているのだろうか、ランディの声がくぐもり、身体が揺れている。
「君が辛い思いをしているのは知っていた・・・
俺を見るその瞳がいつもいつも悲しそうだったから・・・」
「ごめんなさい・・ランディ様・・・」
「だから、限られた時間の中で、できるだけ君には笑ってほしかったんだ。
悲しい顔は見たくない。
だけど、俺には君を笑わせることはできない・・・
許して・・・ほしい・・アンジェリーク───」
「ラ・・・ン・・」
言葉が出なかった。
熱い想いがこみ上げてきて、アンジェリークは声をあげて泣き出した。
どうして気付かなかったんだろう。
ランディの大きな愛に。
こんな大きな愛に包まれていたことに。
───最初から。
最初から全てをやり直そう。
もう、ずるい子にはならない。
自分の気持ちに正直に、決して辛い事から逃げない。
そしてオスカー様と女王陛下を、ランディ様をきちんとまっすぐ見よう。
だから、ランディ様───
泣いているアンジェリークをしっかりと支えるように、いつまでもいつまでもランディは彼女の小さな身体を抱きしめていた。
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女王候補の候補様のリクエストは炎様と風様と感性様とアンジェのお話で
ちょっとややこしくなって、でも最後は風様とエンディング♪ というリクでした。
しかし、オイラが書いたのはどうにもこうにも・・・ごめん。
いっつもいっつも思います。
もっと希望に近く書き上げられればよかったんですが、すいませんです(;;)
セイラン様なんてちょっとしか出てこないし(号泣)
嗚呼・・・もっと、もっと精進いたしまする・・・・
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