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迷いの星

「ちっ! まいったぜ!」
「愚痴ったってしょうがないだろ、ゼフェル!」
いつもならここから喧嘩に発展するところだが、疲れきったランディの声を聞き、また
ゼフェル自身もさんざん歩き回って疲れ果てていたことで、かろうじて喧嘩は回避された。
それにしても、一体ここはどこなんだ?
足を止めて辺りを見回すが、まったく見覚えのない景色ばかりが目に映る。
ランディとゼフェルはマルセルの私邸に遊びに行き、三人で私邸の庭を走り回っていた
はずだった。
いくらマルセルの庭が広いとはいえ、こんな場所はなかったはずである。
「少し休むか・・・」
ランディが腰を降ろしたのを見て、ゼフェルも腰を降ろした。
「一体ここはどこなんだよ!」
いらだちまぎれに呟くゼフェルの言葉にランディからの返事はない。
ランディも同じことを思っているのだ。
喉がカラカラに渇いている。
だが喉を潤す水すら見当たらないのだ。
「・・・おいランディ」
「しっ!」
何かを話そうとしたゼフェルを制して、ランディは耳に手を当てていた。
「───水の音だ!」
「なに?!」
「微かだけど水の音がする・・・行くぞ、ゼフェル!」
「あ、ああ・・・」
水と聞いて元気が出たのかゼフェルは勢いよく立ち上がり、ランディを先頭に歩き始めた。

サラサラと水の流れる音がはっきりとゼフェルの耳にも届いた。
背の丈ほどある覆い茂った草をかきわけ、二人は歓声をあげた。
「うひょ〜!!!」
「やったな! ゼフェル!」
見れば小さな川があり、そばには小さな家が建っていた。
喉が渇いていた二人はとりあえず川の水で喉を潤し、その小さな家のドアをノックする。
コンコンと乾いた音が響き、中から可愛い女性の声で返事があり、ドアが開いた。
「あ・・・」
「・・・オメー・・・」
「何かご用でしょうか?」
中から顔を出したのはアンジェリークそっくりの少女だった。
「おいっ! オメーここで何やってんだよ!」
「アンジェリーク!」
だが、少女は目をぱちくりさせて二人を見るばかりである。
「からかってんのかよ! テメー!」
「きゃあ!」
「やめろって、ゼフェル!」
その時だった、少女の背後からいきなり老婆が顔を出したのだ。
「うわあああ!」
「わっっっ!」
「なんだい、どうしたんだい?」
「おばあちゃん・・・」
「あんた達、あたしの可愛い孫娘になんか用かい?
 ・・・ここら辺では見かけない顔だね」
どうやら、アンジェリークとは別人のようである。
それを理解したランディとゼフェルは自分達の状況を説明した。
もちろん守護聖であるということは話をしなかったが。
「ふん・・・ならとりあえず中にお入りよ。
 さっきもあんた達のような人が来てね、中にいるよ」
「それって・・・」
「マルセルか?」
二人の予想通り、家の中ではマルセルがおいしそうにケーキを食べていた。
「あっ! ランディ! ゼフェル!」
「テメー!!! テメーのせいで変なところにきちまったじゃねーかよっっ!!」
「やめろってば!」
「変なところとは何だね、失礼な子だね」
「うるせー! ばばぁは黙ってろ!」
「やめろ! ゼフェル!
 ───すいません、ちょっとこいつ気がたっているもので・・・」
ここがどこだかはまだわからなかったが、とりあえず人と会い、そしてマルセルとも会った
ことでゼフェルはいつもの元気を取り戻していたようであった。
「とにかくテメーが責任を取れよ!」
「何で僕が? 僕だっていきなりここにいたんだもん!」
「あの、ここはどこですか?」
変な質問だとは思いながらもランディは少女に尋ねた。
「え・・・ここは・・・」
ちょっと困った少女に代わって老婆が口を挟む。
「ここはここだよ、迷いの星とも言われてるらしいけどそれ以上のことはわかるもんか」
答えになっていない老婆にゼフェルがくってかかった。
「ばばぁっ! いー加減にしろよ! 
 だから迷いの星ってのはどこら辺にあるかって聞いてんだよっ!」
「やかましい坊主だねぇ、それ以上のことはわからないって言ってるだろう?
 時折あんた達みたいに迷ってこの星に来ちまう人間がいるけど、帰る方法はあたししか知らないさ」
「なっ!」
「教えて欲しいなら、それなりの態度を取ることだね。
 ───嫌なら三人とも出て行くんだね。
 ・・・言っておくけどこの辺りには家なんて一軒もないよ。
 あの山を二つほど越えたところにだったら、誰も住んでいない山小屋はあるけどさ。
 この星にはあたしとアンジェラの二人しか住んでないさ」
暗くなった窓の外を指さして淡々と話す老婆。
「ま、そこに行きたけりゃ止めはしないさ。
 でも山を越えるのも大人の足で二日はかかるみたいだね。
 熊や狼が出るみたいだからね、あんた達なんかすぐに食べられちまうよね」
とどめの一撃であった。
そこまで言われて今からこの家を出る勇気はなかった。
「・・・・・・」
「すいませんが、今日はこちらに泊めてもらえますか?」
ふくれっ面のゼフェルを足で蹴りながら、三人の中での年長者らしくランディが礼儀正しく
頭を下げる。
「お願いします、おばあさん」
マルセルも素直に頭を下げた。
「ふん、最初っからそういう風に言やぁいいんだよ。
 ───アンジェラ、お客さんにご飯の用意をしておあげ」
「はい」
アンジェラと呼ばれた少女はにっこり笑って、奥に消えた。
「ケッ!」
「ゼフェル!」
姿も似てれば、名前まで似てやがる───
苦々しくアンジェラの後ろ姿を見ながら、ゼフェルはイスに乱暴に座った。

食事を終え、アンジェラが三人の寝具を用意するために客室に行っている間、老婆は厳しく
三人に注意した。
「いいかい、あたしの可愛い孫娘に手を出したら承知しないからね!」
「も、もちろんです!」
なぜか顔を赤らめながらランディが答える。
「手を出したら、あんた達が誰であれひどい罰を受けてもらうよ!
 素直におとなしくしてたら、あんた達を元の世界に戻してあげるよ」
「はい!」
「そこの威勢のいい坊主もわかったね!」
「ケッ! 誰があんなモゴモゴ・・・!!!」
慌ててランディがゼフェルの口を押さえる。
「わかったならいいさ」
老婆は満足そうに頷いて、ロッキングチェアを揺らし始めた。
「ベットの用意が整いましたよ」
「あ、ありがとう」
「この家はせまいので、私と同室なんですけどいいですか?」
「えっ?!」
「おばあちゃんの部屋もあるんですけど、せまくて一人しか寝れないんです。
 私の部屋ならひっついて寝れば皆さんで寝れるので・・・」
「そ、それは・・・」
「僕達ここで寝ます!」
「布団はアンジェラとあたしのしかないんだよ。
 それにここで寝るなんて風邪ひいちまうよ! 
 ───遠慮せずにアンジェラと寝ればいいだろ」
「で、でも・・・」
「私と同室が嫌なら、私がここで寝ますけど」
そこまで言われては了承せずを得なかった。
「いいかい、わかっているよね?」
「わかってるよ!」
「はい・・・」
「大丈夫です!」
念を押す老婆に返事をして、ランディとゼフェル、マルセルはアンジェラの部屋に入った。
飾りもほとんどない質素な部屋。
ただ、女の子の甘い香りがただよう部屋で、眠れずにいるランディとゼフェル。
アンジェラとマルセルはすやすやと穏やかな寝息をたてて眠っているようだった。
「・・・ったく、あのばばぁ!」
「まぁ・・明日になったらおばあさんに頼んで飛空都市に戻してもらおう」
「マルセルもいい気なもんだぜ! 
 ・・・だいたいこいつのとこに遊びに行ったからこうなったのによ!」
「それは言っても仕方ないだろう、ゼフェル」
「テメーも何をいい子ぶってんだよ!
 ちょっと年が上だからっていい気になってんじゃねーよ!」
喧嘩の始まりである。
最初は我慢していたランディであったが、売り言葉に買い言葉。
とうとう取っ組み合いの大喧嘩が始まった。
マルセルも目を覚まし、二人を止めにはいる。
バタン! ドスン!
暴れ始めた二人と止めに入った一人はバランスを崩して、アンジェラの身体の上に倒れこんでしまったのだ。
「・・・きゃあああああああああ!!!!」
いきなり三人の男性が身体の上に乗っかったのだから驚くのも無理はない。
アンジェラの悲鳴が小さい小屋に響き渡った。
「ばっ! 馬鹿! 静かにしろ!」
慌てて口を押さえるゼフェル。
そこに老婆が飛び込んできた。
「あんた達! 何をやってんだい!」
「ち、違うんです!」
「何が違うんだい! あたしの可愛い孫娘に手を出すなんて!」
老婆とは思えないものすごい力で三人を部屋の外に出し、老婆は三人にむかって説教を始めた。
延々と続く説教を大人しく聞いている三人。
やがて空が白み始めた頃、老婆は説教をやめ、罰を言い渡すと言い出した。
「本当にすいませんでした!」
ランディがどれほど頭を下げても老婆は頑として聞かなかった。
「その罰をクリアすれば、ちゃんと元の世界に戻してあげるよ。
 ───いいかい、ここから少し離れたところにある森に果物がなってるんだ。
 あたしは足が悪くて森までは行けないし、あの娘を一人で森にはやれない。
 ・・・何かあったら大変だからね。
 そこであんた達に森から果物を取ってきてもらいたいんだ」
───そんなことか・・・
三人はそっと胸をなでおろした。
「わかりました!」
「わかったよ・・・」
「僕、行って来ます!」
そんなことで済むなら、と三人は元気良く指された森へと出かけていった。

「結構あるんだね、僕どれを持って帰ろうかな〜」
老婆の言う通り、森には季節を問わず色々な果物がなっていた。
「おい、どこ行くんだよ!」
更に奥に入ろうとするランディをゼフェルが呼び止めた。
「もうちょっと奥に行って果物を探してくるよ、滅多にあのおばあさんもアンジェラも
果物を食べれないみたいだし」
「あんまり遅くなんなよ!」
「ああ! わかってる!」
ランディの元気な声を背に、ゼフェルは姫リンゴを手に取った。
マルセルはブルーベリーの実を摘んでいる。
「オメーはそれか?」
「うん! ランディには悪いけど僕先に行くよ。
 早く二人に食べさせてあげたいしね!」
「・・・俺も先に戻るか・・・」
元気よく走り出したマルセルを追いかけるようにゼフェルも走り出した。

「おばあさん! 取ってきたよ!」
「ほらよ、これでいーだろ!」
マルセルとゼフェルを一瞥し、老婆は二人を床に座らせた。
「まだだよ」
「えっ?!」
「今からが罰さ。
 いいかい、持ってきた果物を鼻の穴に入れるんだ。
 うまく入ったら許してあげるよ」
「テメー!!!!!」
つかみかかろうとしたゼフェルを身軽にかわして、老婆は手に持っていた杖でぴしゃりと
ゼフェルの背中を打った。
「いいかい、ここでは死に値する罰が果物を鼻の穴にいれることなんだよ!!
嫌ならあんたの命をもらうまでだね!」
「くそー・・・・」
よほど痛かったのだろう、ゼフェルは床の上にうずくまったまま動けなくなっていた。
それを見て、マルセルが慌てて鼻の穴にブルーベリーの実を入れる。
「入ったよ・・・」
少し涙声のマルセル。
それを見て老婆はマルセルに向かって杖を一振りした。
瞬間、マルセルの姿が消える。
「・・・・さぁ、あの子は元の世界に戻ったよ。
 あんたも戻りたけりゃ、さっさとやることだね」
「───こんのぉ、くそばばぁが!
 ああ入れてやるよ! 入れりゃいいんだろ!!!」
ぎゅむぎゅむと鼻に姫リンゴを押し込むゼフェル。
あまりの痛さに涙が出そうだったが、それをこらえ姫リンゴを押し込んでいく。
ほぼ半分が入った頃、いきなりゼフェルの鼻から姫リンゴが飛び出てしまった。
「ダメだね、あんたは戻れないよ!」
冷たく言い捨てて、老婆はゼフェルに向かって杖を一振りした。
「うわあああああ!」
身体がどこかに吸い込まれていくようなそんな感覚が走ったあと、いきなり地面に叩きつけられるゼフェル。
「・・・い、いてぇ・・・」
どうやら深い穴の中らしく、遥か上空には青空が見える。
やっとこ起き上がったゼフェルの目の前で何か動くものがあった。
「・・・?」
「お前か・・・」
「う、うわっ! お、驚かすなよ! 
 ・・・って、何でクラヴィスがいるんだよ」
「・・・・私だけではないぞ」
暗闇に慣れてきた目で見れば、クラヴィスに背を向けるようにすわっている金の髪を持つ
首座の守護聖がいた。
「・・・ジュ、ジュリ───」
「・・・私はともかく、何故そなたまでここにいるのだ?!」
あきらかに怒っている口調のジュリアス。
どうやらジュリアスもクラヴィスも同じような目にあったらしい。
どうりで一昨日あたりから姿が見えないと思ったら───
「そなたもあの老婦人に罰を受けたのだな?」
「ああ! そーだよ! そーいうおっさん達もここにいるってことはよ!」
「フッ・・・私邸の庭を散歩していたら用があるとかでこやつが来てな───」
「元はと言えば、そなたが職務怠慢なのがいけないのだ!!!
 ───何故私がこのような目に・・・」
「ここで喧嘩しても仕方ねーだろーよ!」
いつもなら自分が喧嘩をふっかけるはずのゼフェルが、喧嘩を止めにはいる。
「───で、お前は何の果物を持ってきたのだ?」
クラヴィスの問いに、ゼフェルは素直に答えた。
同じ目にあっている者同士、隠しても仕方のないことである。
「俺は・・・姫リンゴだよ。
 マルセルの奴はブルーベリーでよ、元の世界に戻っちまった。
 俺も・・・半分ぐらいまでは鼻の穴に入ったんだけどよ、その時ついうっかり窓の外を
見ちまったんだよ・・・」
「ほぅ」
「ランディがよ、嬉しそうに、んで誇らしそうに大きなスイカを持ってくるのを・・・
 で、ああ、同じ目にあうんだなって、でもさすがにスイカは入らねーよなって考えたら
 吹き出しちまってよ・・・」
「なるほど・・・それは無理だな」
真面目な顔で聞いているジュリアスに対し、クラヴィスは後ろを向いて肩を震わせて笑っていた。
「そー言うおっさんはどーなんだよ!」
この言葉がクラヴィスの笑いのツボをついたらしい。
「ぶぶっ」
たまらずに吹き出してしまったクラヴィスにジュリアスが激昂した。
「クラヴィスっっ!!!!」
「・・・私は・・・ライチだった・・・が、こやつは・・・・」
声が震えている。
「なんだよ! 俺も言ったんだからちゃんと言えよ!」
「こや・・つはイガのついた栗だ・・・った。
 ・・・あきらかに無理・・・だと思うが、それを・・・一生懸・・命」
そこまで説明して、その状況を思い出したのだろう、クラヴィスは我慢できずに声をあげて
笑い出した。
青い顔をして怒り狂っているジュリアスの鼻にはイガで傷ついたのだろうか、血が流れていた。
「ま、しゃーね・・・・」
ゼフェルがそこまで言いかけた時、大きな声がしてランディが落ちてきた。
「うわぁ!」
「ランディ・・・」
「ゼフェル・・・あ、あはははははは!
 やっぱりスイカは無理だったよ! ゼフェル!」
あくまでも元気なランディにさしものジュリアスも堪えきれず笑い出した。
「あ・・・ジュリアス様・・・クラヴィス様も?」
「みんな同じような目にあったらしーぜ」
「マルセルは?」
「あいつはブルーベリーだったから、元の世界に戻れたみたいだな。
 ま、迎えにはくるだろ、迷いの星ってばばぁが言ってたし・・・
 マルセルもそれを聞いてるしよ」
ゼフェルの言葉に一応安堵した守護聖達はそれぞれの状況を思い浮かべ、自分のことは
さておき、再び笑い始めるのであった。



                         FIN 


あとがき(言い訳ともいう)

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