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猫茸騒動<地> その1




その日、ルヴァとアンジェリークは森の湖で二人の時間を楽しんでいた。
ルヴァは湖に釣り糸を垂らし、アンジェリークはそのルヴァの隣で湖を眺めている。
穏やかで静かな時間がゆっくりと流れていた。
「あ〜釣れませんね〜」
ルヴァはほっぺたをぽりぽり掻きながらアンジェリークに話しかけた。
今日はルヴァの釣った魚を焼いて二人で食べようとこうして森の湖に来ているのだ。
「頑張ってください、ルヴァ様!」
「あなたは退屈ではありませんか〜?」
「いいえ! ルヴァ様と一緒にいられるんですもの!」
明るい太陽のようににっこり笑うアンジェリークを眩しそうに見つめ、ルヴァは再び釣り糸の方に
目をやった。
「そうそう、魚が釣れたらどうやって食べましょうか〜」
「私、一応ホイルと調味料を持ってきました!」
「ああ、ホイル焼きですね〜
 あれはおいしいですものねぇ〜
 それなら頑張って釣らなければなりませんね〜」
「はい!」
森の湖にいる魚は大変美味である、と以前ルヴァは言っていた。
アンジェリークはそれをとても楽しみにしていたのだ。
しばらく釣り糸の先を見ていたアンジェリークだったが、ふとある事を思いつき、ルヴァの側を離れた。
「・・・アンジェリーク?」
どうしたのですか〜? というニュアンスを含んでルヴァはアンジェリークの名前を呼んだ。
「ルヴァ様! 今日は植物図鑑は持っていらっしゃいますか?」
「ええ、釣りが終わったら森の奥の珍しい植物をあなたと一緒に調べようと思って持ってきていますよ」
「ちょっとお借りしてもいいですか?」
家庭科の得意なアンジェリーク。
魚だけをホイルで焼くのではなく、ハーブやきのこなどと一緒に焼けばもっとおいしくなるだろうと
考えたのだ。
「どうぞ〜」
ルヴァの了承を得たアンジェリークは、植物図鑑を持って森の奥へと入っていった。

「ふ〜本当に釣れませんね〜・・・」
釣りが好きということと釣果とは必ずしも結びつくものではない。
いつもなら釣り糸を垂らし、ぼんやりと色々なことを考えているだけで良いのだが、今日は別である。
せっかくアンジェリークと一緒にここに来たのだ。
なんとかしておいしい魚を彼女に食べさせたい。
いつになく真剣に釣り竿を握っているルヴァ。
エサをつけかえたり、釣るポイントを少しずらしたり、と努力していたルヴァに待望の魚信(アタリ)が
あったのだ。
釣り糸が引っ張られ伸びていく。
魚を逃がさないよう、慎重に釣り糸を巻いていくルヴァ。
あまり一度に巻きすぎると釣り糸が切れてしまうので、巻いては少し手を止め、また巻きはじめる、
といったことを繰り返し、見事ルヴァは魚を釣ることに成功した。
二人で食べるには充分な大きさの魚。
魚の口から釣り針を外し、ルヴァは満足そうに微笑んだ。
ちょうどその頃、アンジェリークも森の奥から戻ってきた。
手にはハーブやきのこなどを持っている。
「あっ! ルヴァ様、釣れたんですね!」
「ええ、今釣れました〜」
二人はにっこり笑って、ルヴァは魚をさばき始め、アンジェリークは採ってきたハーブやきのこを洗って
ホイル焼きの準備を始めた。
魚の切り身ときのこに調味料をふって、その上にハーブを置いてホイルでくるむ。
森の湖についてからすぐに始めた焚き火にそのホイルを2つ入れて、後は焼きあがるのを待つだけである。
「あ〜でも、釣れてよかったですね〜」
「はい! すごいです! ルヴァ様!」
好きな釣りで魚が釣れ、それを大好きなアンジェリークに誉められてルヴァは心底嬉しそうであった。
持ってきた魔法瓶からお茶をついでアンジェリークに渡す。
「どうぞ〜」
「ありがとうございます! ルヴァ様!」
二人はお茶を飲みながら、いろいろな話に花を咲かせた。
可愛らしいアンジェリークの話を満足そうに聞いているルヴァ。
やがて、魚の焼ける良い香りが辺りに漂い始め、ホイル焼きができあがったことを知らせていた。
「やけどをしてはいけませんからね〜 少し待っていてくださいね〜」
慎重に焚き火からホイルの包み2コを取り出し、用意していたお皿の上に移すルヴァ。
「はい、どうぞ〜」
「ありがとうございます!」
ルヴァからお皿を受け取り、アンジェリークは包みのフタとなっているところを外した。
ふわっと香る匂い、ほこほこ立ち上っている湯気。
見た目と匂いは大成功である。
「ああ〜とてもおいしそうですね〜」
「ええ!」
再度微笑みあい、二人は早速食べ始めた。
魚の身は上品で淡白であり、それが調味料によってとてもおいしく味付けされている。
また、上にのせられていたハーブが一層その味を引き立てている。
無心に箸を動かしていたルヴァ。
「とってもおいしいですよ〜。 アン・・・ジェ──────」
言いさして、ルヴァは絶句した。
今しがたまでそこに座っていたアンジェリークの姿が見当たらない。
返事代わりに聞こえてきたのは・・・
「にゃぅ」
という猫の声であった。
「あああああああああ〜〜〜アンジェリーク?!」
「みぃ」
見れば金色の子猫が不思議そうにルヴァを見上げている。
「ど、どうして───」
おろおろするルヴァ。
そして、おそるおそるホイル焼きに入っていたきのこを見る。
「ね、猫茸?!」
植物図鑑を見るまでもなかった。
おそらくアンジェリークは“香り茸”というきのこを採ったつもりなのだろう。
その“香り茸”は“猫茸”とよく似ている。
そしてその“猫茸”を食べて文字通り“猫”になってしまったのだ。
ルヴァは慌てて焚き火を消し、釣り道具や食事道具一式を片付け、アンジェリークが着ていた服、
そして“猫”となってしまったアンジェリークを連れて私邸に戻った。



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