ぷち★でびる
天気も良く、おなかもいっぱいなとある午後の日。
いつもなら、守護聖達も思い思いに時を過ごすのだが、今回は違った。
膨大な量の仕事に執務室にこもりきりである。
そんな中でただ一人、ゆっくりと散歩している守護聖の姿があった。
守護聖の首座、ジュリアスである。
自分の執務を終え、他の守護聖達の執務が終わってからの最後のチェック等があるまでは
束の間ではあるが時間があるのだ。
「・・・?」
辺りの景色を眺めながら歩いていると、茂みの中で何かが光ったような気がして、ジュリアスは茂みを覗き込んだ。
「───ゼフェルの物か。
まったく、このような物を乗り回して誰かに怪我をさせたり、怪我をしてしまったらどうするのだ。
ましてやこんな所に隠しておくなど、何かあったら・・・」
ガサガサと茂みをかき分けてエアバイクを目立つところに移動させるジュリアス。
ぶつぶつ言いながらも目は隠してあったエアバイクに集中している。
メタリックグレーのボディは、太陽の光を浴びて渋く輝いている。
余計な飾りなどは何一つない洗練されたデザイン。
そして器用なゼフェルらしく、目立たないところにあらゆる工夫が施されていた。
「・・・・・・」
乗馬が好きなジュリアスである。
何か乗り物に乗るのが嫌いなはずがない。
ましてや、バイクは『一度乗ってみてくださいよ』と言わんばかりに魅力的だった。
「誰も・・・おらぬようだな・・」
誰も見てないことを徹底的に確認し、そっとバイクにまたがる。
座り心地も良く、身体を吹き抜けていく風が心地良い。
まるで自分が本当にこのエアバイクに乗っているかのように錯覚してしまう。
だが、当たり前だが辺りの景色は動かない。
そこでジュリアスはそっと目をつぶってみた。
「・・・・・」
このバイクで自由に移動したら───
フルスピードで走り回ったら───
アンジェリークとタンデムできたら───
そんな自分の姿を想像し、自分でも気がつかないうちに口走っていた。
「ぶうん、ぶうん、ぶうううううん・・・・・」
何という爽快感だろう。
身体からこみ上げてくる陶酔感に浸っていたジュリアス。
そこへ突然可愛らしい少女の声が聞こえてきた。
「楽しそうですね、ジュリアス様♪」
「───ア、アンジェ・・・リー・・・」
「それゼフェル様のエアバイクですよね?
ジュリアス様も興味がおありなんですか?」
純真無垢な瞳で問いかける少女に、慌ててジュリアスはエアバイクから降りた。
「そ、そのようなことは───
こっ、ここっ、ここにバイクなど置いてあったからどかしていただけだ」
「そうなんですかぁ?」
「もっ、もちろんだ。
茂みにこのような物を隠していて、何かの拍子に倒れて誰かが怪我をするかもしれぬ。
それに──────」
「ぶうん、ぶうん、ぶうううううん・・・・・なんですね♪」
「うっ・・・」
にっこりと少女が微笑む。
「大丈夫ですよ♪ 誰にも言いませんから♪」
「アンジェ───」
「お楽しみの邪魔をしてすいませんでした、ジュリアス様!
どうぞ続きを♪」
続きを、と言われても続けられるものではない。
まだ心臓がばくばくいっているジュリアスにぺこりん、とお辞儀をしてアンジェリークは去って行ってしまった。
「──────」
なすすべもなく立ち尽くすジュリアス。
そしてこの日から、ジュリアスの受難の日々が始まったのだった。
「ジュリアス様ぁ♪」
執務室に訪れる少女の姿。
「あ゛・・・」
「うふふ♪ 今日はお願いにきました〜♪」
「いっ、育成の・・・」
「いいえ♪ 今度の日の曜日、聖地から別の星に遊びに行ってみたいんですけど?」
「ならぬ!
そなたは女王候補であり、現在は女王試験を───」
「ぶうん、ぶうん、ぶうううううううん・・・」
「ぐはっ・・・」
「お願いしまぁす♪ ちゃんと戻って来ますから♪」
「しかし、それは───」
「あら、私誰にも言ってませんよ?
あの『光の守護聖ジュリアス様』が『エアバイク』に乗って『妄想』しながら
『ぶうん、ぶうん、ぶうううううん・・・・・』って言ってたことなんて!」
「がふっ・・・」
あの時ジュリアスは“妄想”ではなく“空想”をしていたのだが、そんな違いに気がつくほどの余裕はない。
「だから───
お願いします、ジュリアス様・・・」
瞳をうるうるさせて顔を覗き込むアンジェリーク。
その姿に誰が逆らえるだろうか。
ましてや、自分は弱味(?)を握られている。
「わかった・・・許可しよう。
そのかわり、必ず戻ってくることが条件だ、よいな?」
「はいっっ!」
頭を抱えているジュリアスをみて、くすっと笑うアンジェリーク。
一事が万事この調子だった。
何かことあるごとには“あの『光の守護聖ジュリアス様』が『エアバイク』に乗って『妄想』しながら
『ぶうん、ぶうん、ぶうううううん・・・・・』って言ってた”を持ち出しジュリアスを悩ませる。
───そして。
───やっぱり。
───当たり前。
とうとうジュリアスがブチきれる日がきた。
それは、クラヴィスとアンジェリークが二人で過ごしていた日のこと。
書類提出の期限が今日になっても書類が提出されていないクラヴィスにジュリアスが怒鳴り込んできたのだ。
仕事が出来てないならまだしも、アンジェリークと楽しそうにしているクラヴィスを見て、瞬間沸騰するジュリアス。
「クラヴィスっっっ!!!」
「ジュ、ジュリアス様───」
驚いたアンジェリークがジュリアスをおとなしくさせようとして、
『ぶぶうん、ぶうん、ぶうううううん・・・・・』と呟いたのも火を注いだ。
さらに爆発する怒りに、クラヴィスは平然と、アンジェリークはさすがにオロオロしている。
「とにかく今日中に書類を提出するのだっっっ!!
よいなっっっっっ!!!」
捨て台詞を残し、アンジェリークを連れて、ジュリアスは執務室へ戻った。
「そなたが言いふらしたければ言うがよい!
もう、そなたの脅しにはのらぬっっ!!!!!
女王試験を何だと思っておるのだ、そなたは!!!」
よくもまあ体力が続くものだと思うぐらい大きな声を上げて怒るジュリアス。
説教は延々と続いた。
溜め込んできた怒りを発散して、少し落ち着いたのか、やがてジュリアスの声のトーンが柔らかくなる。
ふと、アンジェリークを見ると、大きな瞳に涙をためてぐっと泣くのをこらえていた。
「うっ・・・」
普段の彼女なら、すぐにぽろぽろと涙をこぼしていたはず。
それを必死でこらえている姿に、ジュリアスは弱かった。
「───わかったのならそれでよい、明日からは女王試験に身を入れるように・・・」
「はい、ジュリアス様、ごめんなさい」
素直に非を詫びるアンジェリークを執務室から解放したあと、少々言い過ぎたと反省するジュリアス。
だが、それも甘かった。
執務室を出る間際のアンジェリークの口もと。
それを見れば、再び怒りが増していたであろう。
そう。
アンジェリークは口もとに笑みを浮かべていたのである。
まるで、勝った、といわんばかりに。
それからのアンジェリークは女王試験を真面目に受け、新しい女王に選ばれた。
「この光の守護聖ジュリアス、陛下に忠誠を誓います」
片膝をつき、新女王に挨拶をするジュリアス。
そして再びジュリアスの受難の日々が続く。
「ジュリアス様、お茶入れて♪」
「へ、陛下・・・」
「だって女王に忠誠を誓ってくださったもん♪」
「あ゛」
「あ、それから肩ももんでね、あの衣装重くってすぐ肩凝っちゃうし」
「い゛」
「それが終わったら、私の部屋の花に水をやっておいてね♪
枯れたらジュリアス様のせいだからね」
「う゛」
「そうそう、今日は一緒にお茶を飲んでくださるわよね、ジュリアス様?
超極甘なお砂糖じゃりじゃりのケーキを作ったの、全部食べてね♪」
「え゛」
「あっ、それから今日のお茶会にはクラヴィス様もくるから、仲良く笑いながら話をしてね。
絶対に怒鳴ったりしないでよ♪」
「お゛」
あわれ、ジュリアス。
まだ女王候補の時だったら怒ることはできるのだが、女王になってしまった今となってはどうしようもない。
彼女に宇宙の全てがかかっており、その彼女に忠誠を誓った身である。
「がああああああああああああああああっっっ!!!!」
聖地では、夜な夜な絶叫するジュリアスの声が聞こえるようになったという。
HOME