Last Love
「よ、 アンジェリーク」
「アリオス!!」
「・・・?
それは・・・俺の名前か?」
「自分の名前を覚えていないの?」
「悪かったな。前にも言っただろ?記憶が曖昧なんだ。
自分の名前すら思い出せねぇんだよ」
「そうなの・・・」
「それより、もう一度俺の名前を呼んでもらえないか?
知ってるんだろ?」
「うん・・・わかったわ。
あなたの名前は・・・
レヴィアスよ。
レヴィアス・ラグナ・アルヴィス・・・
それが、あなたの名前───」
全てを覚悟したアンジェリークの瞳。
レヴィアスと呼ばれたアリオスの目がすっと細くなった。
「レヴィアス・・・」
「──────」
「アンジェリーク、お前にはマジで感謝するぜ。
おかげで、思い出せたよ。過去に何があったか、
俺がお前に何をしたか・・・・。
俺は、お前に会うべき人間じゃないってことだな」
「──────」
「二度と会うことはないだろう。
それが、お互いのためだ。
じゃあな、アンジェリーク」
「待って!
待って!! レヴィアス!!」
悲鳴のようなアンジェリークの叫びにレヴィアスは足を止めた。
わかっていた。
アリオスに、レヴィアスに真実を告げればどうなるかぐらい。
でも。
でも、レヴィアスには全てを思い出してほしかった。
それはあの戦いのことではない。
レヴィアスの胸にある、たった一人の想い人。
レヴィアスを愛していたからこそ、思い出してほしかった。
そして決心していた事。
「───我にこれ以上何の用がある?」
レヴィアスが足をとめ、アンジェリークを辛そうに見つめた。
「私・・・あのね、私、まだやらなきゃいけないことがあるの・・・
だから───もうちょっと待っていてほしいの。
それが終わったら・・・」
「何を言っている?」
戸惑いの声を出すレヴィアスにアンジェリークは優しく微笑んだ。
「全てを・・・思い出したんだよね?
───魔道の事も・・・」
「何が言いたい?
あの戦いでの苦言か?
どれほど酷い仕打ちを受けたか、と我に言いたいのか?」
「違う、違うわ、レヴィアス───
違うの・・・」
「お前の戯言に付き合うつもりはない」
「レヴィアス、待って!
今、私のやっていることが終わったら・・・
それが終わったら、エリスさんと一緒になれるの───」
わずかにレヴィアスの瞳が翳る。
「だから、それまで待っていて。
私の前から消えないで・・・
もう、あんな想いはしたくないの!」
心の底からの叫びだった。
虚空の城でのレヴィアスの寂しげな顔。
その言葉。
あの時のことが鮮やかによみがえる。
自分の前から消えていってしまったレヴィアス。
どうすることもできなかった自分。
いつまでも変わらないレヴィアスへの想い。
「私と・・・エリスさんが似てるって無人島で言ったよね?
───キーファさんやカインさんのように、私の身体を使えば・・・
魔道を使えば、私の身体から命を抜き取ることだってできるでしょう?
そして・・・エリスさんの命を───」
「何・・・を・・」
お前は───
お前を我が手にかけろと言うのか?
我は、再び失うのか?
お前と言う愛しい存在を───
エリスがいなくなった時に味わったあの気持ちをまた味わえと言うのか?
「私の外見では気にいらないかもしれない。
でもよく似ていて、中身はエリスさんだったら───
だから・・・だから今度は幸せになって・・・お願い」
「・・・・・」
アンジェリーク。
宇宙を統べる者。
全てをその白い羽根で優しく包み込む存在。
あまりにも眩しくて、愛しすぎる存在。
「我は───」
エリスを・・・
レヴィアスの心が激しく揺れる。
「話はそれ・・だけ。
だから、だから、全てが終わったら会って・・・ね?」
完全に沈黙してしまったレヴィアスにことさら元気な声でそう言い残してアンジェリークは走り去った。
これでいい───
「これで・・・いい・・よね───」
宇宙の危機を救えば、後はレイチェルが何とかしてくれる。
エリスに対して、何も思わないと言えば嘘になる。
せき止められていた水が溢れだすかのようなレヴィアスへの想い。
そのレヴィアスに想われ続けているエリス。
私と良く似たエリスへの・・・想い。
───そして。
あの日以来、アンジェリークはアリオス・・・いやレヴィアスには会いに行かなかった。
自分で命の期限を決めたアンジェリークは、懸命に頑張っていた。
金の髪の女王陛下、ロザリア、レイチェル、守護聖様方、教官様達。
何もかもを目に焼き付けるように。
何もかもを覚えているように。
この宇宙全ての物を慈しむように───
「・・・終わった・・のね」
何もかもが終わった。
あの虚空の城の戦いの後のような虚しさ、切なさはない。
後は───
怖くない。
むしろ、嬉しいぐらい・・・
それは不思議な感情だった。
喜びをわかちあっている皆の前からそっと抜け出し、あの場所へと向かう。
お願いだからそこにいて。
私を待っていて。
お願い───
祈りながら走るアンジェリークの目前に、人影が見えてくる。
「レヴィ・・・アス」
金と碧の瞳がアンジェリークを無言で迎えた。
互いに見つめあったまま、重苦しい沈黙が流れていく。
レヴィアス。
ほんの少しだけでいいの。
私のことを覚えていてね。
私があなたを愛してたこと。
あなたと出会えてよかったことを。
目を閉じ、レヴィアスの前に跪く少女をレヴィアスはじっと見据えていた。
アンジェリーク。
我はお前を・・・
お前を愛している。
「アンジェリーク───」
その名に込められるだけの愛を込め、レヴィアスはアンジェリークの肩にそっと手を置いた。
華奢な身体が一瞬震える。
「我は・・・もう自分の心を偽らない。
我の望みは───
お前とともにいることだ・・・」
「レヴィア・・ス?」
お前を失ってまで。
お前の身体という器にエリスの命を入れどうなる魂を入れる?
お前のその瞳は、お前が我を映さない。
お前のその声は、お前が我を呼ばない。
我の望みは・・・お前がいることだ。
「ともに───」
「・・・レヴィアス」
エリスを愛していた。
今でもまざまざと思い出すいまわしい出来事。
愛を告げる事すらできなかった自分。
そんな自分にもどかしさを感じ、アンジェリークにエリスの面影を求めていたのも事実。
だが今は───
今は、はっきりと言える。
「愛している、アンジェリーク」
「レヴィアス!」
華奢な身体を抱きしめ、レヴィアスは天を仰いだ。
「──────」
エリス・・・我を許すか?
お前を愛し、今、この娘を愛している我を。
だから───
『幸せに・・・なってね』
微かに。
レヴィアスに聞こえたあの懐かしくも優しい声。
そっと目を閉じ、心の中で答える。
約束しよう、エリス。
アンジェリークを幸せにする事を。
お前のように辛い思いは決してさせない事を。
ありがとう。
ありがとう───エリス。
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