節分の日
「あ〜・・・今年もこの日が来ましたね〜・・」
陽も昇りきらないうちから、ルヴァの私邸は賑やかだった。
台所からはしいたけやかんぴょうを煮る甘辛い香りやつーんとした酢の匂いが漂ってくる。
「寒いですが、今日も良い天気でよかったですよ〜」
うんうん、と満足げに頷いて、ルヴァはとある物に手を伸ばした。
「一体・・・節分とは何なのだ───」
聖殿の中庭では、ジュリアスが暗い顔をして呟いた。
「・・・それは・・・」
それを受けて困ったように返事をするオスカー。
「ケッ、節分だかなんだか知らねーけどよ、何で俺まで呼び出されなきゃなんねーんだよ!」
文句をぶちぶちたれているゼフェル。
「よせよ! ルヴァ様が折角俺たちのためにしてくださるんだぞ!」
いつもの通り元気なランディ。
「そうだよ、ルヴァ様に失礼だよ!」
チュピを肩にのっけてゼフェルに抗議するマルセル。
「ZZZZZZ・・・」
そんな騒ぎをよそに眠っているクラヴィス。
「・・・・・・・」
そのクラヴィスを見ながら柔らかい音楽を奏でているリュミエール。
「もう、冬だって紫外線対策が大変なんだから★」
一人木陰にいるオリヴィエ。
そして、何が起こるんだろうとワクワクしているアンジェリーク。
そう。
今日は節分の日。
昨日、ここに集まった皆の所にルヴァからの手紙が届いた。
『明日は節分という日です。
皆さんの厄を払い、幸せに過ごせるように準備しました。
つきましては、明日の午後、聖殿の中庭に集まってくださいね』
そしてその手紙を受け取った全員がここに集まったというわけである。
「俺はよ、忙しーんだよ! ったく、ルヴァのヤロー・・・」
ゼフェルが立ち上がったその時、向こうからのんびりしたルヴァの声が聞こえてきた。
「あ〜お待たせしてしまってすいません・・・」
「ルヴァ様!」
「アンジェリークも良く来てくださいましたね、嬉しいですよ〜」
にこにこ笑いながらルヴァは持っていた大きなバスケットを地面に置いた。
「───ルヴァ、一体節分とは何なのだ?」
ジュリアスの問いに、さらににっこり笑うと、ルヴァは皆に節分の日の説明を始めた。
「ええ〜っと・・・
節分というのはですね〜・・・季節の節目なんですね。
昔は───」
「ちょっと〜★ 昔のことはいいからさ、今日は一体何をするのさ?」
長くなりそうなルヴァの言葉をオリヴィエが遮った。
「あ〜・・・それは・・・
太巻きを食べたり、豆をまいたりとか、後は───」
「はぁ?!」
全員が一斉に、あきれたような、何とも言えない声を出す。
「いえ・・・ですからね、皆さんに悪いことが起こらないように・・・と」
「──────」
「───それで、ルヴァ様、私達はどのようにすれば良いのでしょうか?」
沈黙してしまったこの場の雰囲気に助け舟を出すようにリュミエールが尋ねる。
「あ〜そうですね〜・・・では、これを───」
はい、はい、という風に大きな丸々一本の太巻きをそれぞれに渡していく。
「・・・・ルヴァ」
「あの───ルヴァ様・・・」
「ルヴァ・・・様?」
それぞれが不思議そうな顔をしてルヴァを見るが、ルヴァはお構いなしである。
全員に手渡した所で、ゆっくりと口を開いた。
「今年の恵方は南南東ですね〜・・・
それでは、南南東の方角に向かってください〜」
「?????」
「ル、ルヴァ様?」
「なんでしょう? アンジェリーク?」
「あの・・・これは?」
太巻きを持ちながら小首をかしげるアンジェリーク。
どうやら彼女のは、他の守護聖達の物よりかなり小さい。
ルヴァが小食な彼女の為に気遣ったのだろう。
「今から説明しますね〜
節分の日には、恵方に向かって、切っていない太巻きを丸かぶりするんですよ〜。
しかも、話しながらではいけません。
黙って、静かにそのまま一本食べてくださいね、そうして厄払いをするんです。
それが終われば豆まきをしますから・・・ね?」
「は・・・はぁ・・・」
不思議に誰も異論を唱える者はいなかった。
いや、異論を唱えられなかったと言ってもいいだろう。
いつもの通り、のんびりした口調ではあるが、気合に満ち溢れた顔。
そして張り切っている姿。
何より皆を気遣ってこのような事をしているルヴァの気持ち。
それらを考えると誰も何も言えず、ルヴァの言う通り太巻きを持って、南南東の方向を向いた。
先ほどまで寝ていたクラヴィスもリュミエールに起こされ、ねぼけまなこで太巻きを持っている。
「あら? ルヴァ様はお食べにならないんですか?」
再びのアンジェリークの問いにルヴァはにっこり笑って答えた。
「ええ、私は今朝、済ませてきましたから・・・
さぁ、今から黙って食べてくださいね〜、絶対に喋ってはいけませんよ〜」
ルヴァを除いた八人の守護聖が一斉に南南東に向かって太巻きにかぶりつく。
その後ろにアンジェリーク、そしてアンジェリークの隣にルヴァの姿があった。
黙々と太巻きを食べる守護聖達。
守護聖達が持っている太巻きはかなりのボリュームである。
おそらく、今日はもう夕食も取れないだろう。
小ぶりの太巻きをアンジェリークが食べ終わる頃の事だった。
話し声も何もない静かな空気の中に響くとある音。
ぶぅ〜ぅぅぅぶぶぅ〜〜
どう考えても、オナラとしか聞こえない音が彼女の耳に飛び込んできたのである。
こんな時、黙っていなければいけないというのは拷問に等しい。
音は自分の前方から聞こえた。
つまりは守護聖八人のうち誰かがオナラをした、ということだ。
「ぐ・・・」
思わず吹き出しそうになるアンジェリーク。
ちらりと前方を見ると、全員の肩が震えている。
「あ〜、アンジェリーク、ダメですよ〜
食べ終わるまでは絶対に声を出さないでくださいね〜」
涙目になりながら、ルヴァを見るアンジェリーク。
「ええ、ええ、気持ちはわかりますよ〜
誰かがオナラをしてしまったんですよね〜
・・・でもね、ほら『出モノ腫れモノところ構わず』って言うじゃないですか、ね。
そうですね・・・あの音からすると───」
「ル、ルヴァ様・・・」
すんでのところで太巻きを完食したアンジェリークが笑い出した。
限界だった。
ルヴァのそのセリフとアンジェリークの笑い声が起爆剤になって、守護聖全員が一斉に太巻きを吹き出した。
「ああ〜ダメですよ〜! 我慢してください〜」
一生懸命、皆を止めるルヴァ。
だが、もう誰もルヴァの言葉を聞いてはいない。
「誰だよっ! くっせーな!!」
「ぶぶっ・・・」
「やっだ〜★」
全員が転げまわって笑い続けている。
「ああ〜・・・・」
がっくりと肩を落とすルヴァに悪いとは思いつつも、笑い転げる一同であった。
結局、その後、ルヴァの持ってきた豆を撒いて一同解散となった。
「はぁ〜・・・」
「ルヴァ様・・・ごめんなさい」
帰り道、笑ってしまったことをあやまるアンジェリークを優しく慰めるルヴァ。
「いえいえ、誰も悪くありませんから〜・・・それに───」
「え?」
「あなたは太巻きを完食したのですから、ちゃんと厄払いはできていますし───」
夕暮れの陽の中、ルヴァの瞳が光ったのはアンジェリークの気のせいだろうか。
「あ、あの?」
「どうしました? アンジェリーク?」
「い、いえ・・・」
「あ〜もう寮ですね〜。
アンジェリーク、今日は来てくださって嬉しかったですよ」
「ルヴァ様・・・」
「また、今度は私とどこかへ出かけてくださいますか?」
「はい! 喜んで!」
アンジェリークを寮まで送ったルヴァは、今来た道を引き返していった。
持って来たバスケットを大事そうに持って───
「ぎゃー!!!!」
「うわっ! くっせー!!!」
「な、何事か?!」
「・・・・・・」
「これは───?」
「わぁぁぁん、臭いよう!!」
「く、くさいっっっっ!!!!!」
「お、おい! 何だこれは?!」
節分の日の翌朝、守護聖達の枕もとには凄い悪臭を放っているある物が置かれてあった。
太巻きを完食できなかった守護聖達に、せめてもの厄払いを、とルヴァが心を込めて作った物。
夜、ぐっすりと眠っている守護聖達の私邸を回り、ルヴァがこっそり置いてきた物。
それは、柊の葉に生の鰯の頭を刺した物であった。
節分。
各地で行われる行事で、その行事は様々である。
太巻きを食べたり、豆を撒いたり、柊の葉に鰯やめざしをさしたものを飾ったり。
ルヴァは、皆の為にそれらを全て実行したのだ。
他の守護聖達の大騒ぎなぞ知らずに、これで皆の厄払いができた、とばかりに幸せそうな顔をして
ルヴァはまだ眠っていた。

一日遅れのUPです(;;)
節分って、本当に各地で色々な行事がありますね♪
オイラも近くのスーパーで太巻きを買って来て食べました(^^)
皆さんにとってもいい年でありますように♪

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