想失 4
全ては自分で決める事。
このままオスカーと一緒にいることを選ぶのか、それともルヴァの元に行くのか。
ルヴァのところに行っても、もう以前のようにはなれないかもしれない。
だけど。
だけど、自分の気持ちは───
「私は───」
言いかけたアンジェリークのその表情から全てを悟ったように、オスカーがアンジェリークの言葉を遮った。
「アンジェリーク、お前が苦しいのは最初からお前の進む道が間違っていたからだ。
もちろん、間違えさせたのは俺かもしれない。
だが・・・俺の側にいれば、お前の気持ちも楽になると思った。
そして時間はかかるかもしれないが、俺と一緒に生きる道を選ぶだろうと───」
「オスカー・・・」
「・・・オスカー様」
「だが、結局何もなりはしなかった。
最初からわかっていたんだ。
お前がルヴァ様を愛している事を・・俺ではお前を最高に輝かすことができないことを。
───ルヴァ様はあの通りの方だ。
お前と一緒で、今ごろは胸を痛めているだろう。
早く・・・行ってやれ・・・」
「ごめん・・・なさい」
ごめんなさい。
それしか言えなかった。
涙を流しながら頭を下げ、ルヴァの私邸に走り去るアンジェリークを見送り、おもむろにオスカーは
ゼフェルに向き直った。
「さて・・・」
「お、おい───」
「さんざん殴ってくれたよな? ゼフェル?」
「い、いや・・・
ほら、今、テメーのことをちょっぴり見直したところ・・だったんだけどよー・・」
「フッ・・・それはありがたいが、殴られて黙ってる俺ではないんでね───」
「オスカー・・・落ち着け、な?」
「行くぜ! 悪いが付き合ってもらうぞ、ゼフェル!」
ぐいっと口の端の血をぬぐいながら、オスカーの拳がゼフェルめがけて放たれた。
「・・・アンジェ・・リー・・ク」
「ルヴァ様───」
突然現れたアンジェリークにルヴァは目を白黒させている。
「私・・・ルヴァ様に───」
そっとルヴァの人差し指がアンジェリークの唇を閉じた。
「・・・まず、私の話を聞いてもらえますか?」
「───ル・・」
「貴女にずいぶん辛い思いをさせてしまって申し訳ないと思っています。
何よりも大事な貴女を思い出せなかった自分が情けないんです。
そして、何も貴女が責任を感じることはありません、貴女を驚かせてしまった私が悪いのですから・・・」
「ルヴァ様・・・」
「私はどうもこういったことが苦手で・・・
あの時、貴女に・・その・・・プロポーズをしようと思っていたんですよ。
でも、うまく言葉が出なくて・・・咄嗟に貴女にああいう行動を取ってしまいました」
「──────」
「先ほどゼフェルに怒られましてね〜・・・
あの後、私も考えたんですよ。
───どんな結果でもいい、今度はちゃんと貴女に伝えようって・・・ね」
「ル・・ヴァ様」
「アンジェリーク、貴女に辛い思いをさせてしまった私を許してくれますか?
そしてこんな私と・・・一緒にいてもらえませんか?」
言いたいこと、謝りたいことはたくさんあるのに言葉が出てこない。
「あ〜・・・もう泣かないでください、アンジェリーク」
「でも・・・でも私───」
「オスカーと一緒にいたことも自分を責めることじゃありません。
誰しも辛い時、優しくされたらそちらに行ってしまいますから・・・
またそうさせてしまったのも私の責任です」
「ち・・が───」
「いいえ、そうなんですよ。
もう一度、私と一緒に───」
「ルヴァ様!」
ふわっと柔らかくルヴァの手がアンジェリークの身体を包み込んだ。
オスカーの優しさに甘えていた自分が恥ずかしかった。
それでもルヴァの元へ行く事を後押ししてくれたオスカー。
そして。
ルヴァが記憶を取り戻してくれたこと。
そのルヴァが、自分を必要としてくれたこと。
様々な想いがアンジェリークの胸を去来し、大きな声をあげてアンジェリークは泣いた。
「アンジェリーク・・・」
優しくアンジェリークの髪を撫でながら、ルヴァはそっと目をつぶった。
───オスカー、ゼフェル・・・感謝します。
ルヴァは大事な宝物をしっかりと抱きしめていた。
一週間後。
飛空都市ではルヴァとアンジェリークの結婚式が行われた。
恥ずかしそうにウエディングドレスに身を包むアンジェリークを嬉しそうに迎えるルヴァ。
皆がお祝いの言葉を彼女にかける中、複雑な思いで式に出席している守護聖が二人。
「───いてて、お前ももうちょっと手加減しろよ。
いい男が台無しだろう」
「・・・テメーが本気で殴りかかってくるからだろーがよ!」
互いに顔に青アザをつくっているオスカーとゼフェル。
「それにしても、ルヴァのあのでれーっとした顔、何とかなんねーのかよ・・・」
「まぁ、あんないい女を手に入れたんだ、仕方ないさ」
「・・おっさん、テメーもマジだったんだなー・・」
「───まぁな、そういうお前だってそうだったんだろう?
だが、俺の場合、一人の女にこの身を捧げると他の女性が泣くからな」
「ケッ・・言ってろよ、このタコ!」
「ゼフェル!」
「おっ、やんのかよ。
今度はテメーが足腰立たなくなるまで殴ってやるぜ!」
ファイティングポーズをとるゼフェルにオスカーの頬が緩む。
「んだよ、やんねーのかよ!」
「お子様の相手をするほど俺もヒマじゃないんでね」
「テメー!」
「っと、本日の主役のお出ましだぜ・・・」
じゃれあう二人の前に、アンジェリークが静かに歩み寄ってきた。
「おめでとう、お嬢ちゃん。
今日のお嬢ちゃんは何よりも輝いているぜ」
「───オスカー様・・・」
「ま、馬子にも衣装ってやつだけどよ・・・悪くねーぜ・・・」
「ゼフェル様───」
「幸せになるんだぜ、お嬢ちゃん───」
オスカーからの祝福のキスはアンジェリークの頬に贈られた。
「オラ! トロトロすんなよ!
他にも回んなきゃいけねーんだろっ!」
うっすらと涙を浮かべたアンジェリークは頷き、一礼をして二人の前を辞した。
「───綺麗だな」
他の守護聖の前で挨拶をするアンジェリークを眺め、少し寂しげにオスカーが呟く。
「あのよ・・・おっさんよー・・・」
「ん?」
「その・・・なんだ───
俺でよかったら、今日・・・飲むの付き合ってやるぜ・・・」
「はっ、ガキがいっちょまえに───」
「んだとぉ?! やんのか?!」
再びじゃれあいを開始する二人。
そんな二人をよそに、ルヴァとアンジェリークは幸せそうに皆からの祝福を受けていた。
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