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贖罪 2




「ロザリア───」
いきなり背後から声をかけられて、ロザリアの身体がびくっと震えた。
「・・・あちこち探し回ったんだぜ」
「オ、オスカー・・・様?」
「さっきは悪かった。
 今日はお前の誕生日を祝う約束だったな」
「・・・・・・」
オスカーは忘れてはいなかったのだ。
ロザリアはそれだけでも嬉しかった。
そんなロザリアを見て、オスカーはすまなそうに口を開いた。
「お前を傷つけるつもりはなかった。
 公園に行く前に声をかけられて、歩いていただけだ」
女性達が熱い視線をオスカーに送っていることも、それをオスカーがむげにもできないこともロザリアは嫌というほど知っていた。
「そう・・・でしたの」
「ロザリア」
オスカーは、彼女の前で跪き、ロザリアの左手を取った。
ひやっとした感触が薬指から伝わってくる。
「・・・これは・・・」
「台座の裏には俺の家の紋章が彫ってある。
 ───ロザリア、受け取ってくれるか?」
左手の薬指に燦然と輝くダイヤの指輪。
「オスカー様───」
「俺の気持ちだ」
涙がどんどんあふれてくる。
オスカーの胸に顔を埋め、ロザリアはただただ泣いていた。
もう、何もいらない───
オスカーの冷たい態度も、言葉も、手をあげられたことも・・・すべてのわだかまりが消えていくようだった。
「俺の私邸でパーティの準備ができている。
 ───来てもらえるか? ロザリア?」
「・・・はい」
オスカーはいい子だという風にロザリアの額に軽く口付けすると、近くの木につないでいた馬にロザリアを乗せ、駆け出した。

私邸ではオスカーの言う通り、ロザリアのパーティの準備が整っていた。
美しく、またこの上なく美味な食事を終え、ソファで嬉しそうに指輪を見ているロザリアにオスカーはさりげなく
アンジェリークの話を切り出した。
「───そういえば、最近あのお嬢ちゃんは元気なのか?
 あまり育成には来ないようだが・・・」
「ええ、とても元気ですわ。
 最近では、毎日のようにリュミエール様のお話ばかりしていますの」
「へぇ・・・」
「ここのところよくリュミエール様とお過ごしになっているみたいで・・・
 とても幸せそうですわ。
 あの子ったら、夜遅くにでも私の部屋に来てリュミエール様のお話をするんですのよ」
実際、昨日もそうだった。
リュミエールの私邸に遊びに行って楽しかった、と目を輝かせて話すアンジェリークの顔を思い浮かべながらロザリアは苦笑していた。
「・・・・・・」
再び考えこんだオスカーを見て、ロザリアは不思議そうな顔をしていた。
「どうかしましたの? オスカー様?」
「いや、───マルセルの気持ちを思うとな・・・」
「え?」
「ここだけの話なんだが、マルセルはアンジェリークが気にいってたみたいでな。
 まぁ、姉を慕うような気持ちだとは思うが・・・
 このままだと、ちょっとマルセルが可哀想かもしれないと思っただけだ」
「そうでしたの・・・」
「一度、マルセルを誘ってアンジェリークとお茶でも飲まないか?
 マルセルもそれで気が晴れるだろう」
「・・・そうですわね、では、今度の日の曜日にでも一度・・・」
「いや、日の曜日は執務で時間を取れないんだ。
 できれば土の曜日の午後がいいんだが・・・・」
「───わかりましたわ。
 では、土の曜日の午後ということで、アンジェリークにも話しておきますわ」
「マルセルはチェリーパイが好きだそうだ」
「ええ、準備しておきますわね」
「───マルセルのためじゃなく、俺のために焼いてくれよ」
いたずらっぽく笑うオスカーを見て、ロザリアは嬉しそうに頷いた。

土の曜日の午後。
アンジェリークの部屋には、オスカーとマルセル、そしてアンジェリークとロザリアの四人が顔を合わせていた。
「うわぁ! すごいや、これロザリアが作ったの?」
おいしそうなチェリーパイを見て、マルセルは感嘆の声をあげた。
「ええ、アンジェリークにも手伝っていただきましたの」
「すごいよ、アンジェリーク! おいしそうだね!」
「いっぱい食べてくださいね、マルセル様」
にっこりと笑うアンジェリーク。
「・・・じゃあ、お茶ぐらいは俺がいれるとするか・・・」
立ち上がったオスカーをマルセルが止めた。
「あ、そんな、僕がやります!」
「いいから座ってな、とびきりうまいのをいれてやるよ。オスカー様特製のな」
「じゃあ・・・」
わいわいと三人が楽しそうに話をする中、良い香りが部屋の中に漂い始める。
「待たせたな」
それぞれの前にカップを置き、温かいうちに飲むようにオスカーは勧めた。
「コーヒーですか?」
「ああ、だが、ただのコーヒーじゃない。
 これは俺が執務である惑星を訪れた時に飲んだことがあるんだが、『ショコラカフェ』 というらしい」
オスカーの言う通り、味はコーヒーのほろ苦さとチョコレートの甘さの混じったとてもおいしい飲み物だった。
「おいしいです! オスカー様!」
「そうだろ? まだたくさんあるから飲んでくれ、お嬢ちゃん」
アンジェリークの顔を見て、得意そうにオスカーは片目をつぶった。
「うわぁ、本当においしいや! 僕、今日ここに来て良かった!」
マルセルの無邪気なセリフにロザリアは微笑んで、パイを取り分けた。
「うん! とってもおいしいよ! アンジェリーク、ロザリア!」
飛空都市の話や他の守護聖の話など、話題はつきることがない。
やがて喋り疲れたのか、一時間ほどたった頃、アンジェリークとマルセルがあくびをし始めた。
「マルセル様、アンジェリーク、どうしたの?」 
「おいおい、どうした? 疲れたのか?」
「何だか僕眠くなっちゃ・・・っ・・・・・」
「私も何だか急に・・・・・」
言いながら、二人はすぴーすぴーと寝息を立て始めた。
「どうしたのかしら、二人とも・・・」
「疲れたんじゃないのか?」
「──────」
冷たく吐き捨てるように話すオスカーをちょっと驚いたように見つめるロザリア。
「どうした? 残ったチェリーパイは二人で食べるとするか。
 ───ロザリア、先に俺の私邸に行っててくれ、まさかここでゆっくり食べるわけにもいかないし、マルセルを連れて行かないとな」
ロザリアを見るオスカーの瞳はいつもと変わりなかった。
それで安心したのか、ロザリアは頷いた。
「わかりました、じゃあ・・・」
半分ほど残ったチェリーパイを包み、ロザリアはアンジェリークの部屋を後にした。
ロザリアが寮を出て行くのを窓から見届け、オスカーはゆっくりとアンジェリークに近づいた。
「悪いな、アンジェリーク・・・」




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